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    中の人

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    中の人

    TRAININGルーナを戸惑わせたかった。失敗した。
     ルーナ・ドミニカは血縁に恵まれない男だった。顔も知らぬ父は母が孕んだことを知って殺そうとするような悪漢であったらしいし、その母は愛した男に裏切られたことで気が狂って我が子と元恋人を混同して襲いかかるような女であった。だがそれは過去のことだ。今のルーナには大切にしたい存在も信頼のおける仲間もいる。あとついでにそれなりに可愛く思う弟子もいる。母親のことを思い出すと今でも目前にもやがかかるような気持ちになるが、もういない相手のことだ。終わったことを嘆くよりも、ルーナにとっては新しく購入した本のページを一枚でも多く読み進めることのほうがよっぽど有意義に感じられた。
     こんこん、と木製の扉がノックされる。自宅のソファーで寛ぎながら書物に没頭していたルーナは顔をあげ、怪訝な表情をした。ラベンダーベッドの奥まった場所にある彼の自宅を訪ねる人間はそう多くない。それに訪問するともなれば事前に連絡を寄越すだろうし、緊急事態ならリンクシェルがある。なんの約束もない今日に来訪者があるとすれば知人でない可能性が高い。であれば居留守を決めようかとも思ったが、二度、三度と繰り返されるノックにため息をつく。ルーナは本を置くとしぶしぶ玄関へと向かった。玄関扉の磨り硝子ごしに見えるのは背の高い男の輪郭だ。己とそう変わらない身長と体格に、おそらくエレゼンだろうと当たりをつける。見える限り武器は持っていない。
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