【しんこう】見た。
思考は何度も同じ考えを巡り、還ってきてしまう。
「さぁ、おいでよ」
誘う声が私の中で木霊する。手を伸ばしかけるが勇気は出ない。胸に当て、生命の鼓動を確かめた。
「来ないなら、いいよ」
私は選択ができない。急かされても、私はただ焦るだけだ。手は未だに胸の上。緊張で先の体温が失われてきていた。焦燥感が私を蝕む。
「いつまでそこにいるの」
声が震える。
「いつまで待ってくれるの」
体が震える。
「今」
心まで冷える。熱いのは頬を撫でる雫だけだ。落ちた水滴は染み込み跡形もない。それなら大丈夫。
「こっち、きて」
私は空を泳ぎ、
私は水に抱かれ、
私は水底にキスをした。
雲は何事も無かったかのように通り過ぎる。
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