もうすぐ昼休みを迎える火影室は春の陽気もあって穏やかだった。火影室の隣にある事務室でも事務員らがお喋りしながらのんびり仕事をしている。イルカは事務室に顔を出してすっかり顔見知りの彼らに軽く挨拶してから、火影室へと足を向けた。
　アカデミーの入学式から二週間が経ち、火影は新入生の様子を知りたいとイルカを呼び出した。ついでにランチを一緒に……と誘われたのだが、恐らくカカシの目当てはランチの方だろう。イルカと一緒に昼休みを過ごしたいが為に理由をつけて呼び出したと思われる。
　イルカは火影室の前に立つと、扉を軽くノックした。すぐに部屋の中からカカシの声が返って来る。
「失礼します、六代目」
　イルカは扉を開けて火影室に入った。

　今日は帰るって言ってたんだけどな、とイルカは部屋の壁に掛けてある時計を見ながら思った。カカシの帰るという言葉を信じて待っていたが、日付が変わるまで三十分も無い。
　カカシが火影になってからはこういった事が多かった。この時間で帰って来ないのなら何か緊急であったのかも知れない。
　あと少し起きてれば帰って来るだろうかと思いもしたが、口からあくびが出た為イルカは早々に諦めて寝室へ向かった。
　部屋の明かりを消してベッドに潜ると、ふとんを体に掛ける瞬間に猫がベッドに飛び込んで来た。ぼすん、と音を立ててイルカの体の横に着地する。
「わっ。なんだ、今日はいっしょに寝るのか？」
「なん」
　猫が可愛らしい声で答える。ベッドの足下で常夜灯が点いていたが、明かりが少なくてイルカの目には猫の耳と尻尾の生えたまるいシルエットしか見えない。

　もう月末かあ、とカカシが火影室の机に積み上がった書類を無為に眺めていると、シカマルがいのを連れてやって来た。いや正確には、いのがシカマルを引っ張って意気揚々と火影室にやってきた。
「なんかあったの？」
　聞くとシカマルがいつにもまして面倒くさそうな顔をしている。カカシは、ああ面倒くさいことなんだなと察して、いのに目を向けた。
「火影様、提案があって来ました！」
　いのは火影の机の前まで来るなりそう言った。何も聞かずに追い返す訳にもいかず、カカシは話を促す。
「もうすぐハロウィンじゃないですかあ？　その日だけ火影室で仮装しません？」
　それになんの意味が？とカカシは思ったが、多分カカシの言いたいことはシカマルが既に言っていると思われた為とりあえず黙っていた。