あと五百年待ってくれ(1) ──残念ながらもう、目も見えないし耳も聞こえないからさ、と。
青年は言う。相棒と呼んだ少女の腕の中で。
──あのひとに、言伝を頼むよ。そこにいるのが誰なのか、わからないけど……抱えたまま死ぬのは、ちょっと悲しいから。
そうして微笑み、あのさみしがりやに、と。ずっとずっと、おれは、と。
けれどその先を紡ぐことなく、青年はそっと目を閉じた。
「……は、っ?」
口元を押さえる。そうでもしなければ今すぐにでも、叫び出して暴れ回る自信があったからだ。
「なん、え、えぇ……?」
時は夕暮れ。穏やかな茜色が差す部屋の中で、困惑した声を上げる青年の名はアヤックスといった。
「……お、れ……?」
彼の頭を苛んでいる、ひどい頭痛すら意識の外に放り投げられるほど——手にした本の内容に、とあるファンタジー小説で死んだ男に、どうしてかひどく「覚えがある」。
1799