悪夢を祓うのはもう失わない為に、傷付けない為に、守ると決めた。
なのに、伸ばした手は届かなかった。
目の前で起きた凄惨な出来事に理解が追いつかず、呆然と立ち尽くす。
足元にじわじわと広がる赤い海。
その海に沈む、守りたかった恋人。
「……ジータ、」
しゃがみ込んで声を掛けるも応答はない。
手甲を外して頬にそっと触れるも、そこにあったはずの温もりは既に無く。
「……ッ…」
血に濡れる己の手と、血に染まる彼女の金の髪。
あの時と同じ悲劇。救えなかった。守れなかった。
ひどく冷たい空気が肺を刺す。脱力した身体は少しも動かない。
静かに涙を流しながら、その場で項垂れる。
唯一無二の道標を、失った。
「──ッう、ぐぁ……!!…っ、は……はぁっ……」
1938