リゲル
DOODLE喧嘩したくないブラッドリーさんの話どうしようもないブラネロ
無題どうでもいいこと、どうでもよくないこと、何もかもをきっかけに、何百年も口喧嘩をしてきたんだ。もう飽き飽きだというのについカッとなってバッと吐いてしまう。ネロは目をかっぴらいて、よく知る憎たらしい顔を見ていた。これ以上何か言ってくると言うのならグーで殴ってやるつもりでいた。なのに、は、と、気の抜けた息が漏れてしまう。
しがみつくように抱きしめられたのだ。
ブラッドリーは、さっきまでの勢いはどこへやら、ネロの背中に腕を回して、溜息をつくように呟く。
「…正直言って、てめえがどうして怒ったのか分からねえ」
「……喧嘩売ってんのか?」
「ちげえよ、逆だよ、それでも喧嘩したくないんだよ」
呆気を取られる。咄嗟に、言葉を返す。
631しがみつくように抱きしめられたのだ。
ブラッドリーは、さっきまでの勢いはどこへやら、ネロの背中に腕を回して、溜息をつくように呟く。
「…正直言って、てめえがどうして怒ったのか分からねえ」
「……喧嘩売ってんのか?」
「ちげえよ、逆だよ、それでも喧嘩したくないんだよ」
呆気を取られる。咄嗟に、言葉を返す。
しおん
DONEわりといい感じに胡椒で行き当たりばったりデートする二人の話。ログストがすごかった。傘はいいよ最近はなんか晴れが多いから やられた。
先ほどまでキッチンで夕飯の仕込みをしていたはずが、長閑な景色に突如として放り出されてしまった。苦々しい思いでネロはこめかみを押さえる。精霊の気配からして、南の国のどこかだろう。
長めのミルをさっさと入手しておくべきだった。いまさら悔やんでも遅い。目の前では憎たらしいくらい機嫌よく元凶の男が笑っている。
もはや習慣と化しているつまみ食いに対する制裁として、胡椒を思いっきり振りかけた。そこまではもう定番のやりとりだ。しかしくしゃみをして飛ばされる寸前、ブラッドリーが腕を掴んできたのは完全に予想外だった。いや、油断していた。
ボルダ島の領主から初めて招待を受けたとき、そういえば言っていたような。次に胡椒をぶちまけられたら、絶対に道連れにしてやる、とか何とか。あのときすぐに特製のミルを備えておけばよかった。これまではなんとか難を逃れていたが、ついにブラッドリーの企み通り、ネロは巻き添えを食らう羽目になったのだった。
4739先ほどまでキッチンで夕飯の仕込みをしていたはずが、長閑な景色に突如として放り出されてしまった。苦々しい思いでネロはこめかみを押さえる。精霊の気配からして、南の国のどこかだろう。
長めのミルをさっさと入手しておくべきだった。いまさら悔やんでも遅い。目の前では憎たらしいくらい機嫌よく元凶の男が笑っている。
もはや習慣と化しているつまみ食いに対する制裁として、胡椒を思いっきり振りかけた。そこまではもう定番のやりとりだ。しかしくしゃみをして飛ばされる寸前、ブラッドリーが腕を掴んできたのは完全に予想外だった。いや、油断していた。
ボルダ島の領主から初めて招待を受けたとき、そういえば言っていたような。次に胡椒をぶちまけられたら、絶対に道連れにしてやる、とか何とか。あのときすぐに特製のミルを備えておけばよかった。これまではなんとか難を逃れていたが、ついにブラッドリーの企み通り、ネロは巻き添えを食らう羽目になったのだった。
しおん
DONEイベスト(パレーハ)|過去の自分たちとよく似た二人を通して綺麗な別れ方や一緒に生きる方法を考える話。ブラネロです。あの日の正解よりこの先の永遠を考えろ あの二人に何を見ているのかわかる。晴れ渡る空を数滴垂らしたシトリンの瞳の先、そこには決して離れ難さに苦しむ若者たちだけがいるのではない。栄光の時代の残骸。夢の終わりを重ねている。
確かにブラッドリーも嫌というほど意識させられた。馬鹿馬鹿しいくらい似ているのだ。相棒の思いから目を逸らし、何も言わせまいと殊更に明るく振る舞い隣に縛りつけようと必死のセシリオ。大切だからこそ一緒にはいられないと理解していて、別れの言葉を告げないまま消えようとしているルーベン。
どこかで見た景色じゃねえか、とうんざりする。あいつらのように生やさしいやりとりではなかったが、質の悪い過去の再演を観客席から眺めている気分だ。胸糞悪いからさっさと席を立ちたいのにそれも叶わず、嫌々舞台を見つめる。結末がわかりきっている舞台など何の面白みもない。
3464確かにブラッドリーも嫌というほど意識させられた。馬鹿馬鹿しいくらい似ているのだ。相棒の思いから目を逸らし、何も言わせまいと殊更に明るく振る舞い隣に縛りつけようと必死のセシリオ。大切だからこそ一緒にはいられないと理解していて、別れの言葉を告げないまま消えようとしているルーベン。
どこかで見た景色じゃねえか、とうんざりする。あいつらのように生やさしいやりとりではなかったが、質の悪い過去の再演を観客席から眺めている気分だ。胸糞悪いからさっさと席を立ちたいのにそれも叶わず、嫌々舞台を見つめる。結末がわかりきっている舞台など何の面白みもない。
908banmenokobun
DONE2024年3月9日の第100回(!)ブラネロ版お絵描き文字書き一本勝負の参加作です。お題「感謝、笑顔、愛しい」。全部入れたつもりです。仕上げが間に合っていないので、後で差し替えます。1時間以上余裕でかけています。
100回もの開催を本当にどうもありがとうございました!
しおん
DONE現パロ(その後の話②)|しょっちゅう惚気に付き合わされるファの話。※現パロ本『他に行きたいところもないし』をお手に取ってくださった方向けの話です(未読だと話の流れが全くわからない…というほどではないですが、新刊の続きの話です)。
一応簡単なパスワードをつけておきます(『他に〜』の最終章の数字を半角で入力してください)。
※ 要素:ブラネロ、元主従 6327
しおん
DONE冬春パロ②|いい加減けりをつけようと思って百年以上経ってから待ち合わせ場所に向かったネと、百年以上待っていたブが再会する回。来世でもきっと見つけるⅡ 春の王が寝物語に聞かせてくれた話。
昔々、それはもう遥かに遠い時代のこと。国は現在の春、夏、秋、冬の四カ国ではなかったそうだ。今はもう海の底に沈んでしまった。しかしかつては大陸があり、五つに分かれた各々の土地で、さまざまな生活があったのだと王は言う。すべての国にそれぞれ見た目は魔法使いそっくりの、『人間』という生きものも暮らしていたらしい。
人間。
ある一定の年齢(その者の魔力が熟したとき)に成長が止まり、数百年、数千年と生きる魔法使いに対し、人間の寿命は切ないほど短かった。
どんどん老いて小さくなり、大半が百年も生きずに生涯を終える。瞬きする間に過ぎる一生だ。もし親しくなったとしても、あっという間に別れが来てしまう。人間の友達がたくさんいたら、いつだって魔法使いは見送る側。何度味わっても慣れることのない寂しさだろうなとひっそり思った。
8408昔々、それはもう遥かに遠い時代のこと。国は現在の春、夏、秋、冬の四カ国ではなかったそうだ。今はもう海の底に沈んでしまった。しかしかつては大陸があり、五つに分かれた各々の土地で、さまざまな生活があったのだと王は言う。すべての国にそれぞれ見た目は魔法使いそっくりの、『人間』という生きものも暮らしていたらしい。
人間。
ある一定の年齢(その者の魔力が熟したとき)に成長が止まり、数百年、数千年と生きる魔法使いに対し、人間の寿命は切ないほど短かった。
どんどん老いて小さくなり、大半が百年も生きずに生涯を終える。瞬きする間に過ぎる一生だ。もし親しくなったとしても、あっという間に別れが来てしまう。人間の友達がたくさんいたら、いつだって魔法使いは見送る側。何度味わっても慣れることのない寂しさだろうなとひっそり思った。
しおん
DONE冬春パロ|幼い頃に出会ったきりのブのことを時折思い出すネと、どことなく訳知り顔の愛憎の話。いくつもの世界線を超えて何度も再会するブラネロです。来世でもきっと見つける 湖の前で待ってると言われた。来年もその先もずっとここで会おうぜ、だって。屈託のない笑顔だった。こんなに容易く永遠を約束できるやつが世の中にはいる。透き通るようにきらめくロゼ色の瞳が眩しい。
「なあ、聞いてんのか」
「……聞いてる」
焦れたように顔を覗き込まれて、ネロは咄嗟に目を伏せる。それがよほど気に食わなかったらしい。両手で頬を挟まれ、顔の向きを固定されてしまった。かちりと視線が交わると、心臓が微かに痛んだ。火傷したみたいにひりひりする。
「待ってるからな」
「……うん」
頷いたけどもう二度と出会わない気がした。この約束は守られない。元の居場所に戻れば二人で過ごした時間をきっと忘れる。
もしかしたら次の年くらいは律儀にやってくるのかもと少しは考えたけど、その次は? その先は? 低い可能性に縋るのは後から余計につらくなる。今日で終わりだ。思い切ってそう認めてしまった方がいい。
4797「なあ、聞いてんのか」
「……聞いてる」
焦れたように顔を覗き込まれて、ネロは咄嗟に目を伏せる。それがよほど気に食わなかったらしい。両手で頬を挟まれ、顔の向きを固定されてしまった。かちりと視線が交わると、心臓が微かに痛んだ。火傷したみたいにひりひりする。
「待ってるからな」
「……うん」
頷いたけどもう二度と出会わない気がした。この約束は守られない。元の居場所に戻れば二人で過ごした時間をきっと忘れる。
もしかしたら次の年くらいは律儀にやってくるのかもと少しは考えたけど、その次は? その先は? 低い可能性に縋るのは後から余計につらくなる。今日で終わりだ。思い切ってそう認めてしまった方がいい。
しおん
DONE閉じ込めた人と閉じ込めなかった人の話。大事なところで微妙に噛み合わないけど、互いに互いが特別で仕方ない二人。※2周年スト、4周年スト、白雪イベ、メインスト第二部、ノーチェを踏まえた話です。
あの日々を薪にして暖をとるなよ たとえ、相手がいなくなっても、ひとりで生きていけるように。自分以外の他人に心を預けてはならない。北の国で生きるなら当然、守るべき信条。幼い頃から煩いくらい言い聞かせてきた馴染みの魔女もいた。それにも拘らずすっかり忘れてしまったのはいつだろう。
大勢の手下のうちからブラッドリーはたった一人を選んでしまった。
無欲なあいつは、相棒という座を半ば強引に与えられなければきっと、一介の子分として何の不満もなく在り続けていた。仲間のために飯を作って、「ボス」と気怠い声で呼び、呆れや情景の入り混じる目でブラッドリーを追いかけて。『死の盗賊団』は今も失われず、どいつもこいつも無惨に路傍の石に成り果てることもなく。
5892大勢の手下のうちからブラッドリーはたった一人を選んでしまった。
無欲なあいつは、相棒という座を半ば強引に与えられなければきっと、一介の子分として何の不満もなく在り続けていた。仲間のために飯を作って、「ボス」と気怠い声で呼び、呆れや情景の入り混じる目でブラッドリーを追いかけて。『死の盗賊団』は今も失われず、どいつもこいつも無惨に路傍の石に成り果てることもなく。
葵そら
DONEフォ学ブラネロ♀のバレンタインのお話。ネロの出番はちょっと少ない。
ふんわりこちら(https://poipiku.com/3192399/8296293.html)と繋がってますが読まなくても全然問題ないです。
ハッピーバレンタイン♪ 2590
anri_maho
PROGRESS5月新刊予定の客×ディーラーのブラネロです。本編はすけべを多数に含みますが、こちらは序盤なのですけべございません。
ネがボスと賭けをするところ。
友情出演はゴーマンくんです。
⚠️誰とでも寝るタイプのネさん。
⚠️ヤッた男が少し登場(本番はないが事後)
カジノ初心者なので、いろいろ大目に見てください! 5855
よーぐる🍄
DOODLE別れ話をした次の日に店に来るブラッドリーとぶち切れるネロ(未練たらたら)な話てめえは記憶喪失か!「よおネロ、飯食わせろよ」
出入口の扉を開け、ブラッドリーが店に入ってきた。挨拶もないのはいつものことだ。
どう見てもカタギには見えないが、異様に似合っている柄物のシャツとスーツに身を包んだ長身を屈め、昼休憩中で内側に仕舞ってあった暖簾を慣れた様子で潜り、勝手にカウンターのど真ん中のスツールに座る。
「あー、腹減った。飯大盛りな」
そう言いながら長い足を組み、隅に置いてある新聞の束を手に取ってまず広げるのはスポーツ面だ。しかし、ゲームの内容に興味があるわけではない。チームの勝敗だけを確認し、満足そうに頷くと、スマートフォンを取り出して何者かに暗号みたいな数字と記号の羅列を送る。意味は分からないが、どうせ一般人には関係無いろくでもない内容だろう事くらいは分かる。
4217出入口の扉を開け、ブラッドリーが店に入ってきた。挨拶もないのはいつものことだ。
どう見てもカタギには見えないが、異様に似合っている柄物のシャツとスーツに身を包んだ長身を屈め、昼休憩中で内側に仕舞ってあった暖簾を慣れた様子で潜り、勝手にカウンターのど真ん中のスツールに座る。
「あー、腹減った。飯大盛りな」
そう言いながら長い足を組み、隅に置いてある新聞の束を手に取ってまず広げるのはスポーツ面だ。しかし、ゲームの内容に興味があるわけではない。チームの勝敗だけを確認し、満足そうに頷くと、スマートフォンを取り出して何者かに暗号みたいな数字と記号の羅列を送る。意味は分からないが、どうせ一般人には関係無いろくでもない内容だろう事くらいは分かる。
BL1NDF0RL0VE
DONE世界にブラッドリーしか居なかったネロの話※魔法舎軸ですが現実の人物名が出てきます
お前と地獄の話がしたい「この世界にも天国や地獄ってあるんですか?」
魔法舎中庭での訓練中、ふと、賢者さんから尋ねられた。
「あるよ、地獄。俺は旦那様と奥様に拾ってもらうまで、地獄にいた」
シノがくい、と猫のような丸い顎でネロを指した。別にシノはネロに話すことを強いているわけではない。お前の代わりに俺が話した。だから話すも話さないも、自分の好きなようにしたらいい、と大きな赤い目で、待ってくれているのだ。なんかこういうところ、あいつに似てるかもな。いや、そうじゃなくて。
「あー……まぁ俺も似たようなもんだよ。賢者さんが聞きたいのはそういうのじゃなくてさ、もっとこう……」
「祈りや信仰として、天国や地獄といったものが、この世界でも信じられているかということか?」
1500魔法舎中庭での訓練中、ふと、賢者さんから尋ねられた。
「あるよ、地獄。俺は旦那様と奥様に拾ってもらうまで、地獄にいた」
シノがくい、と猫のような丸い顎でネロを指した。別にシノはネロに話すことを強いているわけではない。お前の代わりに俺が話した。だから話すも話さないも、自分の好きなようにしたらいい、と大きな赤い目で、待ってくれているのだ。なんかこういうところ、あいつに似てるかもな。いや、そうじゃなくて。
「あー……まぁ俺も似たようなもんだよ。賢者さんが聞きたいのはそういうのじゃなくてさ、もっとこう……」
「祈りや信仰として、天国や地獄といったものが、この世界でも信じられているかということか?」
しおん
DONE現パロ(その後の話①)|オエから見た紆余曲折あった二人の話。※現パロ本『他に行きたいところもないし』をお手に取ってくださった方向けの話です(未読だと話の流れが全くわからない…というほどではないですが、新刊の続きの話です)。
一応簡単なパスワードをつけておきます(『他に〜』の最終章の数字を半角で入力してください)。
※ 要素:ブラネロ、オエ+クロ 4288
しおん
DONE漫才師パロ(冒頭のみ)|絶対にネ以外と組みたくなくて相方の帰りを待つブと、猫好きの友人とゲーム実況してみたらなんかなんか出てきて困ってるネの話。因縁は同期。※2024/01/07インテ無配です。
再再再解散 日頃の猫背が嘘のように姿勢がよく、やけに真面目な面で切り出すものだから、なるほど次はそのネタでいくのかと思った。惜しくも優勝を逃したグランプリ決勝戦を引き摺っていない。次の目標、新人コンテストに向けてすでに思考を切り替えているようだ。
いいんじゃねえかと頷くと、相方は目を見開いた。なんだその反応。自分から言い出した癖に「いいのか?」「本当だな?」と念を押してくるので眉を寄せる。
「だから、いいって言ってんだろ」
「……本当に、本当だな?」疑り深い眼差しで見据えてくるのだった。「後からひっくり返すなよ」
「ンだよ、しつけえなあ。何回も確かめんじゃねえよ」
「だって……あんた、これまでずっと『解散はしねえ』の一点張りだったろ」
2288いいんじゃねえかと頷くと、相方は目を見開いた。なんだその反応。自分から言い出した癖に「いいのか?」「本当だな?」と念を押してくるので眉を寄せる。
「だから、いいって言ってんだろ」
「……本当に、本当だな?」疑り深い眼差しで見据えてくるのだった。「後からひっくり返すなよ」
「ンだよ、しつけえなあ。何回も確かめんじゃねえよ」
「だって……あんた、これまでずっと『解散はしねえ』の一点張りだったろ」
しおん
DONEすっかり東みたいな顔しながらもネの言動に北っぽさが出ると嬉しかったり、可愛いものが好きなのはよくわかんねえな…と思ったりしているブの話。※2024/01/07インテ無配の増量版です。
おまえが嬉しそうだからいいけど 別に思うまま過ごしたらいいとは思う。背中を丸めて憂鬱そうにしているよりはずっと、楽しそうにへろっと気の抜けた笑い方をしている方がほっとする。
キッチンに用意された犬猫の顔を模したクッキーの一枚つまみ上げ、ブラッドリーはしげしげと眺める。若い連中はさぞ喜ぶだろう。菓子をねだりにきた子供たちが、可愛いとはしゃぐのが目に浮かぶようだった。
「おい、それはお子ちゃまたちの分だからな」
警戒して眉を吊り上げるネロの目の前でぱくりとひと口で食べると、それはもう怒られた。胡椒を取り出される前にさっさと退散すると、訓練終わりの幼い魔法使いたちが入れ替わりでキッチンに向かっていく。案の定、「可愛い」の大合唱だ。そこに照れたように笑う声が小さく混じる。
3046キッチンに用意された犬猫の顔を模したクッキーの一枚つまみ上げ、ブラッドリーはしげしげと眺める。若い連中はさぞ喜ぶだろう。菓子をねだりにきた子供たちが、可愛いとはしゃぐのが目に浮かぶようだった。
「おい、それはお子ちゃまたちの分だからな」
警戒して眉を吊り上げるネロの目の前でぱくりとひと口で食べると、それはもう怒られた。胡椒を取り出される前にさっさと退散すると、訓練終わりの幼い魔法使いたちが入れ替わりでキッチンに向かっていく。案の定、「可愛い」の大合唱だ。そこに照れたように笑う声が小さく混じる。
葵そら
DONEタワマンオーナーのブラッドリーと貧乏OLネロ♀のカウントダウンパーティー年越し後も追記してアップしました!
一応、こちら(https://poipiku.com/3192399/9701847.html)の続きです。
皆さん今年は読んでくださりありがとうございました!来年もよろしくお願いいたします。 4183
葵そら
DONEタワマンオーナーのブラッドリーと貧乏OLネロ♀のクリスマスあらずじ
タワマンパーティーで出会ったブラッドリーとネロ。初対面で襲われそうになって拒んだネロが近くにあったルームランプを壊してしまい弁償するためにブラッドリーの元でバイトするという話。
これ(https://poipiku.com/3192399/9510262.html)の続きです。 2830
60_chu
DONE11/23の賢マナで出す予定のものです。前にアップした「The day before dispersal」を含めて一冊にして出します。前回のブラッドリー、ネロの視点に続き、石になった魔法使い達から語っていく話です。あと、架空の植物が出てくるので前回の話を読んでからの方がわかりやすいかも。The day before dispersal 3 俺たちは一つの群れだった。それも天敵に食われないように群れて大きく見せるようなちっぽけな魚ではなく、一匹一匹が獰猛で屈強で狡猾な狼の群れだった。俺たちは生きるために集ったのではなかった。一人の魔法使いに畏怖し屈服し心酔したから、孤独という北の魔法使いの矜持を捨てて一つの群れになった。何百年と生きてきて自分より若い魔法使いに従うことになるとは想像もしなかったが、そんなことさえ些末に思えるほど我らがボスは頭目としての才気に満ち溢れていた。俺たちはボスが向く方向に頭を揃え、ボスが合図すればいくらだって箒を飛ばせた。服従という麻酔の中で俺たちは痛みを忘れながら走り続けていた。
その麻酔が切れたのはあいつが来てからだった。
7880その麻酔が切れたのはあいつが来てからだった。
zzziree
DONEブラネロ CALLBACKそういうブラネロ3で公開したパラロイパロの漫画です。(※死ネタあり)モブなど多数
自分の中でパラロイの二人を完結させたくて描いた全て捏造の話です。
多少の血、暴力表現があります。
ネロがフィを訪ねる所は2人の記憶が交わるよう描いてます
元のデータが吹っ飛んだため、加筆修正してません…モブとか適当背景で申し訳ない
敵のボスはノーヴァをイメージ。 91
しおん
DONE瀕死のネに人魚の肉を食べさせる夢をみるブの話。おまえに愛される権利がある 長時間の飛行で心底くたびれて、たらふく食べたら眠っていた。厄災の傷は時折役立つが、基本的にはやはり厄介極まりない。今回も随分と辺鄙な場所まで飛ばされた。
皿を空にした直後にはテーブルに突っ伏した。目を瞑ったのは早かったが、即座に意識が飛んだわけではない。まだ微かに意識があったとき、ブラッドリーの耳はところどころ聞き逃しながらも、それなりに音を拾った。
起こさないよう慎重に食器を下げ、遠ざかる足音。焼き立てのアップルパイを嬉しそうに頬張っていた幼い魔法使い二人と賢者が、声のボリュームを落としてひそひそと交わす他愛ない会話。なんの話だこれは。童話? 眠りの底に沈みかけていて、内容が途切れ途切れにしか届かない。
4452皿を空にした直後にはテーブルに突っ伏した。目を瞑ったのは早かったが、即座に意識が飛んだわけではない。まだ微かに意識があったとき、ブラッドリーの耳はところどころ聞き逃しながらも、それなりに音を拾った。
起こさないよう慎重に食器を下げ、遠ざかる足音。焼き立てのアップルパイを嬉しそうに頬張っていた幼い魔法使い二人と賢者が、声のボリュームを落としてひそひそと交わす他愛ない会話。なんの話だこれは。童話? 眠りの底に沈みかけていて、内容が途切れ途切れにしか届かない。
60_chu
DONE11/23の賢マナで出す予定のものです。前にアップした「The day before dispersal」を含めて一冊にして出します。前回のブラッドリー視点に続き、ネロ、石になった魔法使い達、賢者の視点から語っていく話です。加筆修正はたぶんめっちゃする。あと、架空の植物が出てくるので前回の話を読んでからの方がわかりやすいかも。The day before dispersal 2 オーロラ色の小さな欠片は飲みこむ前に口の中でひとりでに融けていった。ブラッドが撃ち落としたもう一人のマナ石はおそらく吹雪に埋もれてしまった。短い春が来るまで雪の下で眠ることになるだろう。それか誰かに掘り起こされて食われるかだ。
ブラッドが、とどめを刺した魔法使いの荷物を確認している間に俺は白樺の樹でテントを作ることにした。ここまで吹雪が激しいなら帰ることは難しい。追跡するうちに風に流された影響もあってか位置も掴みづらい。
「《アドノディス・オムニス》」
幹が太くて頑丈そうな一本の白樺に狙いを定めて呪文を唱える。落ちたのが白樺の林でよかった。白樺は一晩中、魔法で雪を掃うわけにもいかないような夜に雪から身を守るためのテントになってくれる。選んだ樹の周囲に生えていた樹々が、めりめりと轟音を立ててしなりながら円錐形になるように中心の樹に絡みついていく。吹雪がやまない夜は時折この音がどこかから聞こえてくる。北の国の魔法使いは葉の代わりに雪を茂らせた白樺の中に籠ってどこにも行けない夜を遣り過ごす。
6383ブラッドが、とどめを刺した魔法使いの荷物を確認している間に俺は白樺の樹でテントを作ることにした。ここまで吹雪が激しいなら帰ることは難しい。追跡するうちに風に流された影響もあってか位置も掴みづらい。
「《アドノディス・オムニス》」
幹が太くて頑丈そうな一本の白樺に狙いを定めて呪文を唱える。落ちたのが白樺の林でよかった。白樺は一晩中、魔法で雪を掃うわけにもいかないような夜に雪から身を守るためのテントになってくれる。選んだ樹の周囲に生えていた樹々が、めりめりと轟音を立ててしなりながら円錐形になるように中心の樹に絡みついていく。吹雪がやまない夜は時折この音がどこかから聞こえてくる。北の国の魔法使いは葉の代わりに雪を茂らせた白樺の中に籠ってどこにも行けない夜を遣り過ごす。
chomoikabe
PAST羊と猫のワルツ6開催おめでとう&ありがとうございます!Web再録でお茶を濁す体たらくをお許しください!
後で画質とサイズ容量調整し直してpixivに再録upに再挑戦ですわ 6
葵そら
DONEタワマンオーナーのブラッドリーと貧乏OLネロ♀の現パロ。遅くなったけどハロウィンの話です。同僚の誘いでタワマンパーティーに行くことになったネロがセレブのブラッドリーと出会いなんだかんだあって借金返すためにブラッドリーの元でバイトするという話。
続きものみたいだけど1話は存在しません。そのうち書きたいと思います。
ハッピーハロウィン♪
現パロ。女体化。 3882
葵そら
DONE❄🌸ブラネロ♀の子供視点のお話。このお話の二人ですが、前作読まなくてもこれだけでも読めると思います。
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=17091746
女体化注意。二人の子供が出てきます。 2844
しおん
DONE現パロ⑨|なんとなく和解して、なんとなくもやもやして、なんとなく勢いで進展しそうな雰囲気の話。前回の続きです。他に行きたいところもないしⅨ 髪に触れる感触がする。
寝返りを打ったら誰かの体温が近くなった。昨晩の記憶の後半は途切れ途切れで朧げだが、確かカインが家まで送ってくれたような。あいつもかなり飲んでいたし、そのまま泊まっていったのだろう。鍛えてるとはいえ大変だったに違いない。朝食はせめて好物でも作ってやらなければ。
毛先を梳くように撫でていた手が、不意にネロの背中に回される。体の向きが変わって髪には触りにくくなったのだろうか。不思議に思っていると、起こさないようにという配慮が滲む手つきで抱き寄せられていた。
思わず、ふ、と口許が綻んだ。カインにしてはめずらしい、甘えるような仕草だ。普段から距離が近く、肩を抱かれることはしょっちゅうだが、こんなことは初めてだった。もしかしたらまだ寝惚けているのかもしれない。
7861寝返りを打ったら誰かの体温が近くなった。昨晩の記憶の後半は途切れ途切れで朧げだが、確かカインが家まで送ってくれたような。あいつもかなり飲んでいたし、そのまま泊まっていったのだろう。鍛えてるとはいえ大変だったに違いない。朝食はせめて好物でも作ってやらなければ。
毛先を梳くように撫でていた手が、不意にネロの背中に回される。体の向きが変わって髪には触りにくくなったのだろうか。不思議に思っていると、起こさないようにという配慮が滲む手つきで抱き寄せられていた。
思わず、ふ、と口許が綻んだ。カインにしてはめずらしい、甘えるような仕草だ。普段から距離が近く、肩を抱かれることはしょっちゅうだが、こんなことは初めてだった。もしかしたらまだ寝惚けているのかもしれない。
しおん
DONE現パロ⑧|ブのトラウマにうっかり触れたネが「きみが悪い」「おまえが悪い」と記憶がある人たちに怒られる話。※①-⑦はpixivに纏めてます【https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=20559014#1】
他に行きたいところもないしⅧ どうやら本気で怒らせたらしい。
あんなに入り浸っていたブラッドリーが、あれ以来ぱったり訪ねてこない。すっかり二人暮らしのようになっていたのに、出て行ったきり連絡も寄越してこないのだ。お陰でベッドは広く、家は海の底のように静まり返った。
原因はちょっとした悪戯だった。その日の夜はバイト先のレストランが普段以上に混んでいて、とにかく忙しかった。忙しい上に嫌な客も多い大外れの日だ。あちこちのテーブルで聞こえるクレームの嵐。こちら側の不手際によるお叱りは一件のみで、その他は理不尽で過剰な要求ばかり。常連客が居心地悪そうに足早に退店するのが申し訳なかった。
這々の体で帰宅すると、玄関まで迎えにきたブラッドリーが「大丈夫かよ」とやや案じるように浴室まで運んでくれた。そのお陰で、どうにか入浴までは済ませることができたのだった。
8479あんなに入り浸っていたブラッドリーが、あれ以来ぱったり訪ねてこない。すっかり二人暮らしのようになっていたのに、出て行ったきり連絡も寄越してこないのだ。お陰でベッドは広く、家は海の底のように静まり返った。
原因はちょっとした悪戯だった。その日の夜はバイト先のレストランが普段以上に混んでいて、とにかく忙しかった。忙しい上に嫌な客も多い大外れの日だ。あちこちのテーブルで聞こえるクレームの嵐。こちら側の不手際によるお叱りは一件のみで、その他は理不尽で過剰な要求ばかり。常連客が居心地悪そうに足早に退店するのが申し訳なかった。
這々の体で帰宅すると、玄関まで迎えにきたブラッドリーが「大丈夫かよ」とやや案じるように浴室まで運んでくれた。そのお陰で、どうにか入浴までは済ませることができたのだった。
60_chu
DONE賢者になって一ヶ月の新米ちゃんだからなにもわからない。一部から二部までとちょこちょこカードやらのストーリーを読んでいるだけなので齟齬とかあると思います。
もし似たような二次創作が既出なら申し訳ないです。
あと、灼煙草という植物は架空のものなのでJTに聞いても何も出ないです。
The day before dispersal 乾いた紙の上をなめらかにペン先が走っていく。窓の外から重たそうな雨粒が建物を打つ音が聞こえる。俯いて書き物をする賢者の重たげな前髪から覗く瞳は真剣そのものだった。賢者は自分が書いた「賢者の書」をざっと読みなおすと、ありがとうございましたとほほ笑んだ。ここで帰しておけばよかったものを、なぜかその日の俺は引き留めてしまった。夕暮れとは思えないほど曇った空が少し雪の日の北の国に似ていたからかもしれない。
ブランデーをひっかけながら他愛もない会話を俺たちは続けた。そのうちに「アイドル」とやらの話になった。前の賢者が好きだったらしい。俺たちの世界にはないものだが賢者は詳しいようで、人の前で歌ったり踊ったりする容姿に優れた吟遊詩人みたいなものだと説明してくれた。
7465ブランデーをひっかけながら他愛もない会話を俺たちは続けた。そのうちに「アイドル」とやらの話になった。前の賢者が好きだったらしい。俺たちの世界にはないものだが賢者は詳しいようで、人の前で歌ったり踊ったりする容姿に優れた吟遊詩人みたいなものだと説明してくれた。
お ぎ
DONEそういうブラネロ11開催おめでとうございます。短い漫画2点を展示します。(2Pと3P)2つの話は繋がっていません。
どっちも事後の匂わせしかないしボスはどっちもほぼ上裸なのでご注意ください。 7
salmon_0724
DONE #そういうブラネロ11魔法使い、フォ学、パラロイ、妖異譚、シースクのネロが謎時空に集められ、自分のブラッドリーの愚痴をこぼしたり惚気あったりする話です。
全世界ネロ会議 気が付くと真っ白い部屋にいた。
壁も床も天井も白く、窓もないのにやけに明るい部屋だ。
部屋には木製の椅子が五つ。
そのうちの一つに、ネロはゆったりと腰かけていたのだった。
椅子はやけに座り心地がよくて、それは大変結構なのだが、問題はこの部屋にいるのがネロ一人ではないことだ。
円形に椅子が配置されているので、同じく椅子に座っている他の四人の顔がよく見える。
どうやらこの部屋にいるのは全員が同じ顔……、すなわち、ネロ自身と同じ顔の男だと認識せざるをえなかった。
もっとも、変身魔法を使えば容姿を変えることはできるのだから、同じ顔の男が何人存在しようとあり得ない話ではない。
だからネロが一番気にかかっているのは、自分たち五人をこの部屋に閉じ込めた存在の思惑だ。
12238壁も床も天井も白く、窓もないのにやけに明るい部屋だ。
部屋には木製の椅子が五つ。
そのうちの一つに、ネロはゆったりと腰かけていたのだった。
椅子はやけに座り心地がよくて、それは大変結構なのだが、問題はこの部屋にいるのがネロ一人ではないことだ。
円形に椅子が配置されているので、同じく椅子に座っている他の四人の顔がよく見える。
どうやらこの部屋にいるのは全員が同じ顔……、すなわち、ネロ自身と同じ顔の男だと認識せざるをえなかった。
もっとも、変身魔法を使えば容姿を変えることはできるのだから、同じ顔の男が何人存在しようとあり得ない話ではない。
だからネロが一番気にかかっているのは、自分たち五人をこの部屋に閉じ込めた存在の思惑だ。
しおん
DONE入れ替わる話|西の魔法舎で療養中、ネの元に蜜月時代のブがやってくる話です。※過去に掲載したものを2部の時間軸にふわっと変更し、加筆修正しています。
問うてはその応え ようやく西の国から中央の国に帰還する目処が立って、賢者を含め全員が安堵していた頃のこと。
散歩ついでに買い出しを済ませてファウストと西の魔法舎に帰ってきたところ、待ち構えていたかのようにフィガロが門前で手をひらりと振る。てっきりファウストに用があるのだと思った(隠しているようだが二人は妙に親しげな気配がある)が、視線は何故かネロに向けられている。
正直、ネロにとってあまり得意な相手ではない。例の件もあるので、今後は関わりを減らしたかった。情が移るから、というわけではないのだ。何があろうともネロのなかで優先順位がひっくり返ることはあり得ないので、フィガロとこの先どれほど思い出が増えたとしても、ネロは躊躇わないだろう。ただ、夕飯まで部屋で休むつもりでいたので困惑した。隣でファウストも微かに戸惑っている気配がする。
12106散歩ついでに買い出しを済ませてファウストと西の魔法舎に帰ってきたところ、待ち構えていたかのようにフィガロが門前で手をひらりと振る。てっきりファウストに用があるのだと思った(隠しているようだが二人は妙に親しげな気配がある)が、視線は何故かネロに向けられている。
正直、ネロにとってあまり得意な相手ではない。例の件もあるので、今後は関わりを減らしたかった。情が移るから、というわけではないのだ。何があろうともネロのなかで優先順位がひっくり返ることはあり得ないので、フィガロとこの先どれほど思い出が増えたとしても、ネロは躊躇わないだろう。ただ、夕飯まで部屋で休むつもりでいたので困惑した。隣でファウストも微かに戸惑っている気配がする。
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TRAININGお題:「昔話」「リラックス」「見惚れる」盗賊団の伝説を思い出すネロが、ブラッドリーとの初めてのキスを思い出すお話です。軽いキス描写があります。
かつての瞳 ブラッドは酔うと時折、本当に時折昔話をする。
普段はそんな様子など見せないくせに、高慢ちきな貴族さまから後妻を奪った話だとか(彼女はただ可哀想な女ではなく女傑だったようで、しばらく死の盗賊団の女神になり、北の国の芸術家のミューズになった)、これもやはり領民のことを考えない領主から土地を奪い、追いやった後等しく土地を分配したことなど、今でも死の盗賊団の伝説のうちでも語り草になっている話を、ブラッドは酒を飲みながらした。俺はそれを聞きながら、昔の話をするなんて老いている証拠かなんて思ったりして、けれど自分も同じように貴族から奪った後妻に作ってやった料理の話(彼女は貧しい村の出で、豆のスープが結局は一番うまいと言っていた)や、やっと手に入れた土地をどう扱っていいのか分からない領民に、豆の撒き方を教えてやった話などを思い出していたのだから、同じようなものなのだろう。そしてそういう話の後には、決まって初めて俺とブラッドがキスをした時の話になる。それは決まりきったルーティーンみたいなものだった。
1852普段はそんな様子など見せないくせに、高慢ちきな貴族さまから後妻を奪った話だとか(彼女はただ可哀想な女ではなく女傑だったようで、しばらく死の盗賊団の女神になり、北の国の芸術家のミューズになった)、これもやはり領民のことを考えない領主から土地を奪い、追いやった後等しく土地を分配したことなど、今でも死の盗賊団の伝説のうちでも語り草になっている話を、ブラッドは酒を飲みながらした。俺はそれを聞きながら、昔の話をするなんて老いている証拠かなんて思ったりして、けれど自分も同じように貴族から奪った後妻に作ってやった料理の話(彼女は貧しい村の出で、豆のスープが結局は一番うまいと言っていた)や、やっと手に入れた土地をどう扱っていいのか分からない領民に、豆の撒き方を教えてやった話などを思い出していたのだから、同じようなものなのだろう。そしてそういう話の後には、決まって初めて俺とブラッドがキスをした時の話になる。それは決まりきったルーティーンみたいなものだった。
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TRAININGお題「愛」「誕生日」「食べる」盗賊団に入る前の食事を思い出すネロが、みんなに誕生日お祝いをされるお話です。
君はいい子 満足に食事をとることが出来たのは、ブラッドの盗賊団に加わってからのことだった。それまでの俺は三食なんてもってのほかで、俺をいいように使っていた人間の男たちから、薄い塩味のくず野菜のスープにありつけたら万々歳、そこにうすっぺらい肉が浮かんでいたら狂喜乱舞、といった感じだった。残り物だからと腐った肉を食わされた時もあったし、当然何もない日が続くこともあった。とにかく、力のなかった俺には、北の国での生活は過酷だった、というわけだ。
ブラッドは部下に対して、愛を惜しまなかった。どんな寡黙な男たちだって彼の優しさに触れれば涙して、あなたに一生ついてゆくと言った。そして危険な仕事につき、みなボスのためならと喜んで石になっていった。
3632ブラッドは部下に対して、愛を惜しまなかった。どんな寡黙な男たちだって彼の優しさに触れれば涙して、あなたに一生ついてゆくと言った。そして危険な仕事につき、みなボスのためならと喜んで石になっていった。
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TRAININGお題:「花火」「熱帯夜」「一途」ムルたちが花火を楽しむ横で、賢者の未来について語ろうとするブラッドリーとそれを止めるネロのお話です。
優しいあなた 夏の夜、魔法舎に大きな花火が上がった。俺はそれを偶然厨房の窓から見ていて、相変わらずよくやるものだと、寸胴鍋を洗う手を止めてため息をついた。食堂から歓声が聞こえたから、多分そこにあのきらきらと消えてゆく炎を作った者(きっとムルだ)と賢者や、素直な西と南の魔法使いたちがいるのだろう。
俺はそんなことを考えて、汗を拭いながらまた洗い物に戻った。魔法をかければ一瞬の出来事なのだが、そうはしたくないのが料理人として出来てしまったルーティーンというものだ。東の国では人間として振る舞っていたから、その癖が抜けないのもある。
しかし暑い。北の国とも、東の国とも違う中央の暑さは体力を奪い、俺は鍋を洗い終える頃には汗だくになっていた。賢者がいた世界では、これを熱帯夜というのだという。賢者がいた世界に四季があるのは中央の国と一緒だが、涼しい顔をしたあの人は、ニホンよりずっと楽ですよとどこか訳知り顔で俺に告げたのだった。——しかし暑い。賢者がいた世界ではこの暑さは程度が知れているのかもしれないが、北の国生まれの俺には酷だった。夕食どきに汲んできた井戸水もぬるくなっているし、これのどこが楽なんだろう。信じられない。
3531俺はそんなことを考えて、汗を拭いながらまた洗い物に戻った。魔法をかければ一瞬の出来事なのだが、そうはしたくないのが料理人として出来てしまったルーティーンというものだ。東の国では人間として振る舞っていたから、その癖が抜けないのもある。
しかし暑い。北の国とも、東の国とも違う中央の暑さは体力を奪い、俺は鍋を洗い終える頃には汗だくになっていた。賢者がいた世界では、これを熱帯夜というのだという。賢者がいた世界に四季があるのは中央の国と一緒だが、涼しい顔をしたあの人は、ニホンよりずっと楽ですよとどこか訳知り顔で俺に告げたのだった。——しかし暑い。賢者がいた世界ではこの暑さは程度が知れているのかもしれないが、北の国生まれの俺には酷だった。夕食どきに汲んできた井戸水もぬるくなっているし、これのどこが楽なんだろう。信じられない。
niwa
DONE盗賊団時代のブラネロ。他にも付け足してインテの本になります。悪党にまつわる吟遊詩さあみなさまお待ちかね。お話には必ず悪役が必要です。
今からお話ししますのは北の大盗賊団。
北の宝という宝を盗むだけでは飽き足らず、
東の城から上等の細工品を、西の名高い美女を、
中央に集まる東西南北の交易品のことごとく、奪うはやさは疾風のよう。
南の海風も彼らの凍てつく心を溶かすことは叶わない。
悪逆非道の限りを尽くす彼らこそ
泣く子も黙る死の盗賊団、
首領は名高きブラッドリー・ベイン、
その名を聴いたら震えて眠れと申します……
スカーラバの市へ行くのかい
パセリ、セージ、ローズマリーにタイム
そこに住む人によろしく言ってくれ
かつて愛した人なんだ
これは中央の国におすまいの賢者様のふるさとの歌です。
古い民謡だそうですよ。美しく悲しいしらべでしょう。みなさんも一度は耳にしたことがあるのでは? あっというまに流行りましたからね。特に西の国では演奏するたびに大喝采、老いも若きもそらんじているという噂。この歌は遠い北の国まで伝わって、死の盗賊団、その恐ろしい頭目、その片腕、熊の生き胆や赤子の血が好物という、悪名高き血の料理人、ネロ・ターナー。その血まみれの唇にも、このうつくしいしらべは乗ったのです。
3818今からお話ししますのは北の大盗賊団。
北の宝という宝を盗むだけでは飽き足らず、
東の城から上等の細工品を、西の名高い美女を、
中央に集まる東西南北の交易品のことごとく、奪うはやさは疾風のよう。
南の海風も彼らの凍てつく心を溶かすことは叶わない。
悪逆非道の限りを尽くす彼らこそ
泣く子も黙る死の盗賊団、
首領は名高きブラッドリー・ベイン、
その名を聴いたら震えて眠れと申します……
スカーラバの市へ行くのかい
パセリ、セージ、ローズマリーにタイム
そこに住む人によろしく言ってくれ
かつて愛した人なんだ
これは中央の国におすまいの賢者様のふるさとの歌です。
古い民謡だそうですよ。美しく悲しいしらべでしょう。みなさんも一度は耳にしたことがあるのでは? あっというまに流行りましたからね。特に西の国では演奏するたびに大喝采、老いも若きもそらんじているという噂。この歌は遠い北の国まで伝わって、死の盗賊団、その恐ろしい頭目、その片腕、熊の生き胆や赤子の血が好物という、悪名高き血の料理人、ネロ・ターナー。その血まみれの唇にも、このうつくしいしらべは乗ったのです。
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TRAINING8/5 ブラネロ版ワンドロライお題:「エスコート」「秘めたもの」「赤面」
ネロが寝ているところに、不思議な指輪を持って箒で訪ねてくるブラッドリーのお話です。ちょっと甘め。
月の魚 夏の日の夜半すぎ、コツコツと窓が叩かれる音がした。
俺はちょうどその時自室のベッドでまどろんでいて、意識があやふやだったから、最初のうちはそれを夢の中の幻だと思った。けれどその音はしつこく鳴り続けたので、俺はいよいよ目を覚まし(久しぶりに早寝をして気分がよかったのに最悪だと思った。汗はかいていたが)身体を起こし窓を見た。
あたりは月と星の明かりしかなく薄暗かったけれど、分厚い硝子窓越しに映る人影はきちんと見えた。それは紛れもない、俺の元相棒であるブラッドのものだった。どういうわけか知らないが、彼は愛用の箒に乗り、何やらリズムを刻んで不透明な窓を叩いている。鼻歌を歌うようなそれに俺はため息をついたけれど、彼が何かを思いついてしまった時にはことは全て遅く、俺に出来ることは一つもなかった。今夜も、ブラッドは空想を現実にしようとしているか、もうしてしまったのだろう。
3448俺はちょうどその時自室のベッドでまどろんでいて、意識があやふやだったから、最初のうちはそれを夢の中の幻だと思った。けれどその音はしつこく鳴り続けたので、俺はいよいよ目を覚まし(久しぶりに早寝をして気分がよかったのに最悪だと思った。汗はかいていたが)身体を起こし窓を見た。
あたりは月と星の明かりしかなく薄暗かったけれど、分厚い硝子窓越しに映る人影はきちんと見えた。それは紛れもない、俺の元相棒であるブラッドのものだった。どういうわけか知らないが、彼は愛用の箒に乗り、何やらリズムを刻んで不透明な窓を叩いている。鼻歌を歌うようなそれに俺はため息をついたけれど、彼が何かを思いついてしまった時にはことは全て遅く、俺に出来ることは一つもなかった。今夜も、ブラッドは空想を現実にしようとしているか、もうしてしまったのだろう。