Kirin_muzi
PROGRESS5/5超賢マナ新刊の小説パートのサンプルです。断片一
「ティコ湖にはさ、人魚の伝説があるんだって」
髪が雲みたいにたなびいて、ゆるゆると、揺れている。肩も、腹も、胸も、全部が揺れている。魂を揺らしながら笑っているのだ。
ミスラはそれを見るのが好きだ。胸にオレンジ色の花が甘ったるく咲くみたいな、くすぐったくうねるような感じがする。
「空から隕石が落ちてきてさ、他にいないような生き物たちがいっぱい生まれてね、その中には人魚もいたんだって」
「ふうん」
「だから、人魚は、星から生まれてきたんだよ」
突然、チレッタはお気に入りのベッドに横たわるみたいに、自然に後ろに倒れ、そのまま、湖に落ちていった。水はするりとチレッタを受け入れる。
「どう、人魚みたい?」水面に金の髪がふわりと広がっている。
5351「ティコ湖にはさ、人魚の伝説があるんだって」
髪が雲みたいにたなびいて、ゆるゆると、揺れている。肩も、腹も、胸も、全部が揺れている。魂を揺らしながら笑っているのだ。
ミスラはそれを見るのが好きだ。胸にオレンジ色の花が甘ったるく咲くみたいな、くすぐったくうねるような感じがする。
「空から隕石が落ちてきてさ、他にいないような生き物たちがいっぱい生まれてね、その中には人魚もいたんだって」
「ふうん」
「だから、人魚は、星から生まれてきたんだよ」
突然、チレッタはお気に入りのベッドに横たわるみたいに、自然に後ろに倒れ、そのまま、湖に落ちていった。水はするりとチレッタを受け入れる。
「どう、人魚みたい?」水面に金の髪がふわりと広がっている。
秘色-ヒソク-
TRAININGミスチレ 関係や行為に名前はない。互いにそこにあると認識できたものこそが全てであり真実。というような感覚で書くのがすきです。たのしい。
世界のことなど知る由もなく、興味を持つ術すらなく生きていた。
それでもこの場所が世界で最も美しい星空を宿すのだと言えるのは、世界とは何かを教えたひとがいたからだ。
雪原に昇る朝日のようで、肌を凍て付かせ喉を刺す吹雪の疼痛のようで、そして瞬きの間に巡る季節のような女だった。それまでに見た美しいもののどれとも違うのに、別の言葉では形容できない在り方で北の地を生きる魔女。
「ね、あんたもこっちおいでよ。ほら、」
何かを気に入ったとき、その手の内にあるものを与えたがるとき、傷だらけで彼女の元へ戻った姿に見通しているみたいに微笑むとき。招く手の先のその爪は、椿の花の色をしていた。
舟に乗って湖へ出たいと言うからどうぞと答えたのに、これってあんたが普段死体を運んでるやつじゃない、なんて癇癪を起こすおかしな女。死の湖の渡し守ミスラの舟なのだ、死体を運ぶためであるのは当然で、そうと知っていて何を言うのかと思えば。
2857それでもこの場所が世界で最も美しい星空を宿すのだと言えるのは、世界とは何かを教えたひとがいたからだ。
雪原に昇る朝日のようで、肌を凍て付かせ喉を刺す吹雪の疼痛のようで、そして瞬きの間に巡る季節のような女だった。それまでに見た美しいもののどれとも違うのに、別の言葉では形容できない在り方で北の地を生きる魔女。
「ね、あんたもこっちおいでよ。ほら、」
何かを気に入ったとき、その手の内にあるものを与えたがるとき、傷だらけで彼女の元へ戻った姿に見通しているみたいに微笑むとき。招く手の先のその爪は、椿の花の色をしていた。
舟に乗って湖へ出たいと言うからどうぞと答えたのに、これってあんたが普段死体を運んでるやつじゃない、なんて癇癪を起こすおかしな女。死の湖の渡し守ミスラの舟なのだ、死体を運ぶためであるのは当然で、そうと知っていて何を言うのかと思えば。
月まるこ
DONEツイッターにあげていたものミスチレ短文 言葉は信用ならない。
強い魔法使いと結婚して、強い魔法使いを産むといった女は結局、弱い人間の男と結婚した。子供も産んだ。
そしてもうとっくに死んだらしい。
ミスラも知らないうちに。
「チレッタが亡くなったそうじゃ」
「……はあ」
なぜ俺に言ってくるのか、わからなかった。そのまま疑問を口にすれば、よくわからない表情をしていた。
何と言えばよかったのか、何を期待されていたのかわからなかったが、どうでもよさそうだと忘れることにした。
年中、吹雪いているような土地だ。
湖も凍って仕方ない気がするのに、なぜか水のままでいる。
ミスラは舟を出すでもなく、渡し場でぼんやりしていた。
時おり、女の声がする気がして振り返り、雪だけが目に入って息を吐いた。
702強い魔法使いと結婚して、強い魔法使いを産むといった女は結局、弱い人間の男と結婚した。子供も産んだ。
そしてもうとっくに死んだらしい。
ミスラも知らないうちに。
「チレッタが亡くなったそうじゃ」
「……はあ」
なぜ俺に言ってくるのか、わからなかった。そのまま疑問を口にすれば、よくわからない表情をしていた。
何と言えばよかったのか、何を期待されていたのかわからなかったが、どうでもよさそうだと忘れることにした。
年中、吹雪いているような土地だ。
湖も凍って仕方ない気がするのに、なぜか水のままでいる。
ミスラは舟を出すでもなく、渡し場でぼんやりしていた。
時おり、女の声がする気がして振り返り、雪だけが目に入って息を吐いた。
az_matsu
DONEルチルとミチルの任務中に魔法舎でお留守番になったミスラがチレッタとの約束ついて考えたりする話。約束 南の国の魔法使いたちの新しい任務が決まったと聞きつけ、ルチルとミチルに行くなと言ったミスラの提案は、今回も受け入れられることなく却下された。
ノックもそこそこに部屋に押しかけられて荷造りを邪魔されたルチルは、戸口に立ったミスラを振り返り、またかという表情でため息をつきながら返事をする。
「もう、ミスラさんてばまたそんなこと……。心配してくれるのは嬉しいですけど、私たちの事をもっと信頼してくださいって何度も言っているじゃないですか」
「今回の件はフィガロの診療所辺りのことなんだから、フィガロに任せておけばいいでしょう? どうしてあなたたちまで行く必要があるんです」
「被害のある地域は私たちの生まれ育った街の近くだし、知り合いも巻き込まれているかもしれないんですよ。私たちだってお手伝いしたいんです」
5812ノックもそこそこに部屋に押しかけられて荷造りを邪魔されたルチルは、戸口に立ったミスラを振り返り、またかという表情でため息をつきながら返事をする。
「もう、ミスラさんてばまたそんなこと……。心配してくれるのは嬉しいですけど、私たちの事をもっと信頼してくださいって何度も言っているじゃないですか」
「今回の件はフィガロの診療所辺りのことなんだから、フィガロに任せておけばいいでしょう? どうしてあなたたちまで行く必要があるんです」
「被害のある地域は私たちの生まれ育った街の近くだし、知り合いも巻き込まれているかもしれないんですよ。私たちだってお手伝いしたいんです」
az_matsu
DONE雪街のラプソディーにまつわる話。チレッタの思い出と、死と再生とミスラについて書きました。小説を初めて書いたので形式などもよくわかってなくて、表現も稚拙でお恥ずかしいですが、良ければ読んでください。いつか漫画にもできたらいいな…名残の花「チレッタ、これ、なんだかわかりますか?」
チレッタと出会って暫くしたころ、ミスラは死の湖で見つけた不可思議な骨のところへ彼女を連れて行った。
ずいぶん長く生きているというその魔女は、生きた年月の分、知識が豊富だった。彼女は頼まなくてもいつも色々な事をぺらぺらと喋っていて、ミスラには半分も理解できなかったけれど、疑問に思うことを訊ねればたいていは答えてくれる。世の中の物事も、生きる術も、魔法の使い方も。
だが、ミスラが拾い集めた骨たちを暫く眺めていたチレッタは首を横に振った。
「さあ……。見たことない生き物の骨だね。私が生まれるよりもずっと昔に生きていた古代生物かもしれないな」
「これ、魔法で生き返らせたりできないんですか?」
5440チレッタと出会って暫くしたころ、ミスラは死の湖で見つけた不可思議な骨のところへ彼女を連れて行った。
ずいぶん長く生きているというその魔女は、生きた年月の分、知識が豊富だった。彼女は頼まなくてもいつも色々な事をぺらぺらと喋っていて、ミスラには半分も理解できなかったけれど、疑問に思うことを訊ねればたいていは答えてくれる。世の中の物事も、生きる術も、魔法の使い方も。
だが、ミスラが拾い集めた骨たちを暫く眺めていたチレッタは首を横に振った。
「さあ……。見たことない生き物の骨だね。私が生まれるよりもずっと昔に生きていた古代生物かもしれないな」
「これ、魔法で生き返らせたりできないんですか?」