この戎狄銀嶺と名乗る男は、やけに親しく接してくる。特に、どこかで知り合ったという記憶は無いのだが、友達だろ? と常々言うのであった。また、なんとなしに害意を感じないゆえに、そのまま人としての付き合いを──ほとんど、彼からの一方的なものではあるが、続けていた。
「俺、きみと会ったことあったかな?」
「ああ、あるぞ。あの深い山の中で会ったじゃん。……まさか、楪、お前覚えてないのか!? あんなに仲良くなったのに…………あの時ビビり過ぎて記憶も飛んだのか?」
と、やはり言うのだが、自分は最近、山に入った記憶はなく、また、その近くに行った覚えもない(────無論、海外に出る用事もなかった)。こういった術師であれば、忘れるとは考えにくいのだが、彼の虚言にしては、異質なほどの真実味を纏っていた。消去法で、自分の記憶が抜けている可能性を信じてみようともしたが、なかなか信じるには難い。
541