ホームランボール その日新堂は肩のコンディションが非常に良く、俺今日なら甲子園に行けるかもしんねえ、とまで豪語するほどだった。その言葉は決して大袈裟なものではなく、結果として、体育館の天井ギリギリ、肉眼ではそのクレセント錠が上下どちらを向いているのかさえ判別し難いほどの高さにある小さな高窓の中心を完璧なコントロールで打ち抜き、ストライクを取ることに成功した。
そうして拍手と共に教師からいただいたありがたいお言葉により、新堂は今、体育館の倉庫でひたすらに野球ボールを磨いているのだった。
新堂の前に置かれた巨大な鉄カゴの中で、大量の硬球たちがひしめきあって窮屈そうにしている。磨き始めて二十分ほど経ったが、ほとんどその姿を変えることなくたおやかに広がるボール・マウンテンを見て、新堂は大きくため息を吐いた。
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