暴【東巻】 蹴破ったドアの先に東堂はいた。普段彼しか知らぬ者が見れば衝撃的な姿であるが、東堂の裏側をも知る巻島にとっては、それもまたある種日常の範囲内といえる。
だが東堂にすれば、自らの醜態を晒したくない男ナンバーワンに助けられるのだからたまったものではない。それがどの程度かといえば、生じる憤りが味気ない椅子に拘束されるという現状を飛び越え、巻島の突破を許した見張りへ不甲斐ないと向けられるレベルでの話だ。
敢えて派手に扉を破り、せめて湿気た気分を吹き飛ばしてやろうという巻島なりの配慮は今のところ通じる気配はないが、そもそも説明する気もないのがいかにもらしいと東堂が苦笑する羽目になるのはまだ少し先の話だ。
一瞥して東堂の目が全く力を失っていないことを確認し、巻島は歩を進める。室内をチリチリとした緊張が走り、男たちの最奥で後ろ手に拘束された東堂が身じろいだ。
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