犬王の巻を語る最後の琵琶法師私は友有の死後も、魚座の宗有を名乗り続けた。
棟梁はもう居ない。処されとうないので口には出さないが、魚座であり続けたものは確かに多くいた。それだけ、皆、魚座を、愛していたのだ。
私は魚座に人生を変えられた者の一人だった。
盲の父と共に当道座に座していたが、そこが自分の居場所ではないことは、なにとはなく感じていた。琵琶を掻き鳴らすのは好きだ。
だが何かが足りない。
父らは物語をまるまる伝えるだけで、それをより良くしようとは思わなかったらしい。
物足りない、物足りない!
そんな時に奴らに出会ってしまったのだ。橋の上で、まだ幼い犬王が舞い、友一が琵琶を掻き鳴らすのを初めて見た時、あまりの興奮に手足が痺れたものだ。
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