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    ichii0048

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    バトテニ BL R-15G

    【バトテニ】思い出せる君たちへ2【初期校】7.片道の世代③(不動峰)13.GOOD FRIEND(大石・菊丸)15.シンデレラたちへの伝言(桜乃・小坂田・忍足・跡部・樺地)第1回目 戦闘実験第七十六番プログラム生存者名簿

    1 葵 剣太郎(六角)
    2 赤澤 吉朗 (聖ルドルフ)
    3
    4 亜久津 仁(山吹)
    5 跡部 景吾 (氷帝)
    6 天根 ヒカル (六角)
    7 石田 鉄 (不動峰)
    8 泉 智也 (玉林)
    9 乾 貞治 (青学)
    10 伊武 深司 (不動峰)
    11 内村 京介 (不動峰)
    12 越前 リョーマ (青学)
    13 大石 秀一郎 (青学)
    14 鳳 長太郎 (氷帝)
    15 小坂田 朋香 (青学)
    16 忍足 侑士 (氷帝)
    17 海堂 薫 (青学)
    18 金田 一郎 (聖ルドルフ)
    19 樺地 宗弘 (氷帝)
    20 神尾 アキラ (不動峰)
    21 河村 隆 (青学)※
    22 菊丸 英二(青学)
    23 木更津 淳(聖ルドルフ)
    24 木更津 亮 (六角)
    25
    26 樹 希彦 (六角)※
    27 季楽 靖幸 (緑山)
    28 切原 赤也 (立海)
    29 九鬼 貴一 (柿ノ木)
    30 黒羽 春風 (六角)
    31 佐伯 虎次郎(六角)
    32 桜井 雅也 (不動峰)
    33 真田 弦一郎(立海)
    34 宍戸 亮 (氷帝)
    35 ジャッカル 桑原(立海)
    36 首藤 聡 (六角)
    37 千石 清純(山吹)
    38 滝 萩之介(氷帝)
    39 橘 杏 (不動峰)
    40 壇 太一 (山吹)
    41 手塚 国光(青学)
    42 仁王 雅治(立海)
    43
    44
    45 野村 拓也(聖ルドルフ)
    46 東方 雅美(山吹)※
    47 日吉 若(氷帝)※
    48 布川 公義(玉林)
    49 福士 ミチル (銀華)
    50 不二 周助(青学)
    51 不二 裕太(青学)
    52 丸井 ブン太(立海)
    53 観月 はじめ(聖ルドルフ)
    54 南 健太郎 (山吹)
    55 日向 岳人(氷帝)
    56 室町 十次(山吹)
    57 桃城 武(青学)
    58
    59 柳生 比呂士(立海)
    60 柳沢 慎也(聖ルドルフ)
    61 柳 蓮二(立海)
    62 幸村 精市(立海)
    63 竜崎 桜乃 (青学)





    6.片道の世代②(ジャッカル・丸井・海堂)




    空が白み始めた頃、ジャッカルと丸井は「ソレ」を見てしまったー……。

    「う、う、うわぁああああっ!」
    「ひっー……!」

     道端でうつ伏せになって倒れている海堂。頭から大量に出血していて、足がおかしな方向に曲がっていた。見上げた先は崖で、そこから落ちて来たのだろうと予測がつく。
     自殺?事故?誰かにやられた?丸井は考えているうちに吐き気を催し、しゃがみ込んだ。

    「だ、大丈夫か?って大丈夫なワケねぇよな。ごめん……」
    「うえっ、ごほっ、はぁはぁー……」
    「水飲むか?」
    「のみたくない……」

     ジャッカルが背中をさすってくれる。芥川の死にショックを受けた丸井だがさらにショックを受けてしまう。そして胸の中に広がる1つの不安。

    (まさかうちのメンバーがやったんじゃ……。そんなヤツいないって思いたいけど……でも……。やってないと言えるのは一緒に行動してたジャッカルだけだぜ……。みんなを探しに行くつもりだったけど……怖い……)

     仲間に突き落とされるイメージが鮮やかに浮かび上がり一層激しくえずく。
     海堂は乾に見捨てられたと思い自ら身を投げたのだが、丸井はそれを知る由もない。疑心暗鬼になっていく……。



    死亡 海堂 薫 (青学)
    【残り 57人】


    7.片道の世代③(不動峰)



     不動峰の生徒たちは一晩中森の死を悼み、薄闇の中動き出した。
     場所はとある民家の居間で部長の橘を囲うように座っている。団結力ははおどろおどろしい殺意に変化している。

    「橘さん。杏ちゃんのことは俺たちに任せてください。この命に変えても守ります」
    「安心してくださいね!」
    「ちょっと桜井くん、内村くん!私、守られてるだけの女の子じゃないのよ!ね、お兄ちゃんが一番わかってるでしょ?」

     明るく微笑む杏の手には鎌が輝いていた。

    「俺たちは橘さんの計画通り動きます。殺れるだけ殺る……それだけです。こんなゲームに強制参加させられたのはムカつくけど、いや、ムカつくどころじゃないなぁ。頭に来るよなぁ。政府もあの榊っていう氷帝の監督も。偉そうにしてー……あ、すんまそん」

     ぼやきだした伊武だが早々に橘に突っ込まれて口を閉ざす。ずっと泣いていた石田もつい吹き出した。

     彼らが企てた計画は実に単純であった。不動峰が全滅しないよう橘は家に残り、神尾・伊武・石田と内村・桜井・杏と二手に別れ殺せるだけ殺すという物。不動峰全員で生きて島を出るのが理想だが、森が死亡し叶わぬ願いと思い知った。伊武たちの目的は命を懸けて橘と杏を生かすことに変わった。
     杏はそれに納得していない。杏も男子と同じよう命を懸けて兄を守りたかった。
     純粋ゆえ研ぎ澄まされた狂気が部屋に充満していた。誰もが『覚悟』している。

    「じゃあそろそろ行こう」
    「行ってきます。橘さん!」
    「じゃあね、お兄ちゃん。どんなヤツにも絶対負けないから……!」

     3人が手を振り去っていく。神尾はぎこちなく手を振った。伊武と石田は怪訝な顔をして覗き込む。

    「どうしたんだ?神尾」
    「あ、いいや、なんでもないー……」




    8.抱きしめられてみたい②(金田・幸村・真田)




     教会を飛び出した金田は当てもなく走り続けた。どれだけ走っても醜い嫉妬に支配された自分から逃げることはできない。楽しかった思い出と呆然とした仲間の顔が交互によみがえり涙が止まらない。
     ボロボロになって辿り着いたのは広大なひまわり畑だった。観月が優雅な薔薇なら赤澤は太陽に向かって逞しく育ち大きな花を咲かせるひまわりだろう。
     そして自分は名もなき雑草ー……。見向きもされず踏まれてしまう、きっとそんな存在。

    「あぁ、綺麗だ……せめて……ここで死にたい……」

     悲痛な願いだった。ポケットをまさぐって銃を取り出そうとしたが、ない。走ってる最中に落としたのだろう。

    「そんな……」

     金田は大きくうなだれるが、遠くで花たちに紛れるように立海のユニフォームが見え隠れしているのに気づいた。金田は迷いなく立海の生徒へ歩き出す。背を向けていたので誰かわからなかったが、その人物が神の子・幸村精市とわかった時、神々しさに息を呑んだ。

     幸村はゆっくりと振り向き微笑んでいるようで無表情な瞳で金田を見据えた。

    「どうしたんだい。君はルドルフの金田だね」
    「俺を……殺してください。死のうとしたけど銃を落としてしまって……。幸村さんの武器はなんですか」
    「……それは、できない」

     頭を下げる金田に対し幸村ははっきり首を横に振った。なぜか自分は雑草だと笑われているようで酷く傷ついた金田は自分でも思いもよらない言葉を口にした。

    「殺してくれないなら、殺すつもりであなたを襲います」

     足元の岩を拾った時だった。背中に鋭い痛みが走り、胸から細い刃が飛び出す。振り向くと皇帝・真田がいる。突如現れた真田に背後から刺されたと理解したのと同時に刃は抜かれ、金田は血を吐きながら地面に倒れた。

    「かはっー……!」
    「お前に本当の殺意がないのはわかっている。だが『殺す』と言われた以上やるしかないのだ」
    「あぁー……ありがとう、ございま、す。すみま、せ、ごほっ」
    「大丈夫。もう苦しまないで、安心して眠って……」
    「は、い……」

     真田は辛く苦々しい顔で日本刀を握りしめる。幸村は少しでも痛みが和らぐよう祈りを込めて金田を優しく抱きしめた。金田の頬に涙が伝う。

    「赤澤さんー……」

     愛しい人に一度でいいから抱きしめられてみたかった。こんな風に、優しく、力強く、温かく……叶わぬ願いに涙を流して金田は息を引き取った。

     真田と幸村は見つめあって長い間沈黙する。
     どんな理由であれ、人を殺めた事実が重くのしかかってくる。

    「真田、また苦労かけてしまったね。俺が……頼まれたことなのに」
    「かまわん。俺はただやるべきことしただけだ。仲間を、お前を守っただけ……」
    「やるべきこと、か」

     慰めのようにひまわりが風に揺れた。



    死亡 金田 一郎 (聖ルドルフ)
    【残り 56人】




    9.根も葉もない②(壇・泉・布川・切原)



     ぱらららー……。再び森でサブマシンガンの銃声が響き渡る。

    「もう!あんまり走り回らないでくださいよー!また時間がかかっちゃうです!今度はもっと早くやっつけるって決めたのに!」
    「うわぁああああ!」
    「やめろ!俺たちは、お前に危害を加えるつもりはなくて」
    「え?あなたたちがどうだろうと僕には関係ないです」

     笑顔でサブマシンガンを乱射する壇と必死に逃げる泉と布川。武器は短刀と特殊警棒という微妙なモノでサブマシンガンの前では無力だった。
     2人は人気のない森に身を隠しゲームをやり過ごすつもりだったが、休憩しつつハズレ武器を支給された者を隠れて待っていた壇に襲われてしまった。

     不動峰の森を殺害したときは純粋な達成感に包まれていたが、今は少し違う。
     自分より体格がいい年上の2人が死に物狂いで逃げ回っている姿が面白くてしょうがないのだ。頭では素早く仕留めた方がいいとわかっているが、あえて命中させず弄ぶ。人を支配し追い詰める快感と興奮はますます壇を狂わせていく。

    「ねぇ、僕みたいなヤツに……チビで弱っちくて女の子みたいな顔で先輩に媚び売ることしか脳がないヤツに追い詰められるのどんな気分ですか!?悔しいですか?怖いですか?あはははっ」

     全て壇に浴びせられた言葉だった。

     壇の可愛らしい容姿と変わった口調はいじめの的となった。初めはからかいや無視が多かったが次第にエスカレートしていき、女子トイレに閉じ込められたり服を脱がされるようになった。『いたずら』されたこともあった。
     親や教師に訴えても「男らしくないお前が悪い」「ただのイジリや冗談だろう」と相手にされなかった。

     テニス部にやって来た亜久津の背中を追うようになってから「壇は亜久津のモノ」「壇に手を出すとヤバい」という噂が流れ、良くも悪くもいじめは無くなった。
     しかし亜久津がテニス部から姿を消し学校をサボるようになってからいじめは再開した。そんな辛い日々を過ごす壇を狙う者がいた。

     1人で街を歩いている壇に、亜久津の先輩と名乗る高校生たちが「君、亜久津の後輩だろ?」「最近アイツと連絡取れなくてさぁ元気?」「みんな心配してるって伝えてくれよ」と声をかけて来た。
     彼らは喧嘩に負け亜久津を逆恨みしている不良。亜久津の弱みを握るため壇に近づいてきたが、思惑に気づかない壇は都大会での出来事を話した。
     不良たちは壇の素直さと可愛らしい容姿に目をつけ、利用するのではなく自分たちのモノにしようとした。
     連絡先を交換し、他愛ないやり取りをして距離を縮め、部活終わりや休みの日は色んな場所に連れ出す。「こっちの方が似合うから」と髪を染めさせピアスをつけさせた。
     亜久津がいない寂しさは紛れたし、見た目が変わりまた不良と連んでいるといじめは止み、メリットしかなかった。……そう思い込んでいると楽だった。

     テニス部の者は亜久津のせいで感覚が狂ったのか「壇クンもオシャレに目覚めるお年頃かぁ」「派手でいいじゃないか!バンドでも始めるのか?」と良くも悪くもあまり気にしていなかった。
     室町だけは「急にどうしたんだよ。なんかあったのか?」と疑問を口にしていたが。

     壇はいつの間にかカツアゲや万引きに加担するような不良になっていた。

     ぱらららー……ぱらららっ。

     現在、その不良たちと連絡がつかない。警察に捕まったか、喧嘩で大怪我して入院したかー……真相はわからないが、知りたいとも思わなかった。刺激に満ちていたはずの日々もあっという間に色褪せた。

     久しぶりに登校した亜久津に「そのダセーアタマやめろ」と言われたので髪を染め直したしピアスもやめた。穴はもうすぐ塞がるだろう。
    「強者は弱者を搾取できる」「弱い者は虐げられて当然」「弱い方が悪い」という価値観は消えなかった。

     ぱらららー……。

     記憶をかき消すように乱射し続ける壇。銃弾が布川の足を貫いた。

    「あぁああああッ!」
    「布川ーッ!頑張れ!走れ!!」
    「あ、足が、動かない、動かな……」
    「くそーッ!」

     泉は布川を背負い何とか走り出すが当然スピードは出ない。どんどん縮まっていく距離にサディスティックな笑みがこぼれる。

     『悪い先輩』の後ろをついて歩き髪や口調を真似しなくても強い武器さえあれば強者になれると知ってしまった。

    「そんなにゆっくり歩いちゃ撃たれちゃいますよー!ほら!」

     壇が再びいたずらに乱射すると、泉の背中にいる布川が暴れ出した。

    「もういい泉!降ろせ!お荷物になるのはゴメンだ!降ろしてくれ!」
    「降ろせって……なに言ってるんだよ!そんなことしたら撃たれて、し、死んじゃ、」
    「いいんだ……俺はどの道この傷じゃ、もう……だから……」
    「そ、そんな、でも」
    「いいんだー……今までありがとう。お前とのダブルス楽しかったぜ」
    「っ!」
    「相方の最期の頼み、聞いてくれよ。早く逃げろ……!」
    「わかった……」

     止まらない出血に死を悟った布川。泉は断腸の思いで友の頼みを聞くことにした。
     地面にそっと布川を置いて全速力で駆け出す。

    「わー感動しました!最後にいいものを見せてくれてありがとうございます」
    「て、テメーイカれてやがるッ……!」
    「はい。そいうかもしれないです。サヨナラです」
    「ぐわぁああああーッ!!」

     動けない布川に容赦なく執拗に銃弾を打ち込む。万が一殺し損ねて油断したところを襲われる可能性が捨てきれないからだ。それは間違いではないが、壇は大きな過ちを犯していた。

    「隙ありすぎっしょ」
    「え?」

     どこからともなく声がした。振り返ると立海の切原がニタリと凶暴な笑みを浮かべていた。 追うのに夢中で自分が追われていると思いもしなかった。

    「しまったです……!」
    「遅いって」
    「うぐっ!?」

     スパァン!と場違いなほど小気味良い音がして壇の顔面に衝撃が走る。切原はあっという間に壇からマイクロウージーを奪い取り弾丸を浴びせた。

    「ハリセンが武器ってふざけてると思ったけど……やっぱ使い方だよなー。アタリ武器ゲットしたからって調子に乗っちゃったダメだぜ……えーっと誰だっけ?壇?だったか?まぁいいや」

     新しい武器を手にした赤也は上機嫌で歩き出した。



    死亡 布川 公義(玉林)
       壇 太一 (山吹)
    【残り 54人】



    10.リ・ボ・ン(柳沢・淳)




    「6時の放送を行う。死亡者は青春学園中等部海堂薫、聖ルドルフ学院金田一郎、玉林中布川公義、山吹中壇太一だ。もっと真剣に殺し合うようにー……」

     白んでいく空の下、2回目の放送を聞いた柳沢は指を組んで祈っていた。隣で淳が「カミサマなんて信じてないクセに」とクスクス笑った。目が少し腫れているのはごまかせない。
     2人は集落の外れにある崩れかけの小屋で一晩過ごした。

     柳沢は観月の指示通り教会へ向かう途中待ち伏せしていた淳に「行っちゃダメ」と引き止められた。

     淳の支給品は何やら薄汚れた人形。毛糸でできた黒い髪、ビーズの丸い目……中に凶器が隠れているかと思いきや綿が詰まっているだけ。
     柳沢の武器はスタンガン。明らかなハズレ武器の2人には共通した不安があった。

     『敗者に厳しい観月は自分を文字通り捨て駒にするのではないかー……?』 

     教会へ行く柳沢の足取りは重かったが、自分で何かを考える気もなかった。ただ流されているだけ。
     暗闇の中、1人で待ち続けていた淳の精神力に驚いた。そんな相方と一緒ならどうにかなると自分に言い聞かせていたがチームメイトの死に不安と絶望が募る。

    「金田はどうして死んだんだろう。きっと、いや、絶対観月の指示に従ったはず。もしかして、仲間割れー…?」
    「それは……わからないだーね。教会に他校の生徒が襲撃して……って。俺たちがそういうこと考える権利、ないだーね……」
    「………… そうだね」

     長い沈黙の後、淳はため息をついた。赤いハチマキがゆらめく。

    「ここは禁止エリアになる。行こう」
    「あぁ……」

     重い腰を上げて2人は小屋を後にした。
     前を歩く淳の背中を見て柳沢はもう1つの不安が芽生えてくる。

    (兄貴に会いに行かないのかなー……なんで俺を選んだんだ?淳ー……)




    11.命の使い道(乾・柳・切原)



     とある池のほとり。

    「貞治」
    「蓮二」

     かつて博士と教授と呼び合った仲の2人が巡り会う。2人はこのゲームに反撃するつもりだった。生まれ持った天才的な頭脳と収集したデータがあれば不可能ではないと乾は思う。柳も自分の可能性を信じていた。
     うぬぼれや無駄足掻きだと笑われても構わない。
     知識とデータという武器を持っているのに抵抗しないのは罪だ。命を無駄使いしてはいけない。

    「俺たちは俺たちのやり方で戦おう」
    「あぁ、やってみようじゃないか」
    「へぇ?どうやって?」

     2人が固く手を握りあった時だった。ふいにどこからともなく声が聞こえた。

    「なっ!?」
    「ぐはっ!」

     ぱらららー……。乾と柳は銃弾の雨を浴びた。柳の支給品の防弾チョッキを着用していたが顔や手足を撃たれて無意味だった。約束を交わし合った2人は無惨にも凶弾に倒れ息を引き取った。

    「政府に歯向かうつもりでしたか?ハァ。ダメっすよ柳さん。こんな面白いゲーム楽しまなきゃ損じゃん!邪魔させないよ」

     2人から少し離れた場所にある葉が生い茂った木から降りてきたのは壇から奪ったウージーを担いだ切原だ。強力な武器を手に入れ、より積極的に行動するようになった。
     ハズレ武器のナイフを手に躊躇わず歩き続ける乾を見かけ、誰かと合流するのだろうと予想し尾行したのだ。
     乾と柳は細心の注意を払い、様々なケースを想定しつつ誰にも会わないルートを計算して集合場所までやって来た。決して鈍感なわけではない。
     切原の五感は狩りをする獣のように研ぎ澄まされ、第六感めいた領域に達していた。到底知識や理屈で叶う物ではない。

    「……怒らないでくださいね、柳さん。そういうルールだから」



    死亡 乾 貞治(青学)
       柳 蓮二(立海)
    【残り 52人】



    12.ジャックナイフの夏(堀尾・桃城・越前・忍足・向日)



     越前と一番仲が良いヤツ?それはこのテニス歴2年の堀尾様に決まってんだろ!
     その次?えーっと、うーん……やっぱり桃ちゃん先輩かなぁ。
     先輩方の中でとっつきやすいのって桃ちゃん先輩か菊丸先輩だろ?俺らも結構仲良いけど越前と桃ちゃん先輩は別格なんだよ。自転車二人乗りして登下校するなんてカップルかよって感じだよな!
     そんな2人もケンカしたことあって……あ、聞きたい?聞きたいだろ?ふふーん。特別に教えてやってもいいぜ!
    水中トレーニングするためにプールがある施設で合宿したのに、越前のヤツ水着忘れてさぁ。桃ちゃん先輩に「男しかいねーんだから裸で泳げよ」って言われたんだよ。
     単なる冗談なのに真に受けて「裸は好きな人にしか見せちゃいけないスよ」って不機嫌になっちゃって……。
     それで先輩もムッとして「昨日俺と風呂入ったくせに今さらなんだよ。このマセガキ」って言い返したら怒り出して合宿中は口利かなかったんだぜ?
     いつの間にか仲直りしてたけど。
     あとは普通にカツオとカチローとも仲良いし、竜崎と小坂田とも良い感じだぜ?



    ***



     桃城は誰も傷つけたくない一心で人と交わらない覚悟を決めた。大人の言う通り殺し合いするくらいなら禁止エリアに留まり首輪が爆発した方がマシだと思った。
     それなのに2人が出会ったのは運命か偶然か。
     暗闇の中、ずいぶん先に出発した越前が大木にもたれうなだれていたのだ。
     頬に切られたような跡があり、夏なのに氷のように体が冷たくてカタカタ震えている。
     きっと誰かに襲われて……ケガは大したことないがショックで体調に異変をきたしたと予想がつく。

     あの時越前は小さな声で「ほっといてください」と言った。だけど、でも。

     人と交わらない覚悟を決めたはずなのに、大切な後輩を見捨てるわけにはいかなかった。

    「元気になったら返せよ」と一方的に約束してジャージの上着を貸し、越前を担いで安全な場所を探した。

     彼らは一晩かけて山を登り、2人分のスペースがある洞穴でやり過ごそうと思ったが、ここが禁止エリアになるので立ち退くしかない。

    「越前。動けるか?」
    「うっす……」
    「じゃあ行くか」

     上着を2枚羽織りぐったりしている越前に優しく声をかける桃城。その顔はゲームの最中とは思えないほど優しい。
     ゆっくりと立ち上がる越前だが力なくガクリと崩れ落ちた。

    「おっと!あぶねーなぁ」
    「……」
    「責めてるワケじゃねぇよ!?そんな怒んなって……」
    「すみませ……」
    「だ〜!もう!謝るのも禁止!ほら乗れよ」

     ためらう越前に「自転車は遠慮なく乗るくせによー」と笑い飛ばす桃城。
     桃城の精神もギリギリのところにあるが必死に日常を装う。それ以外どうしていいかわからなかったから。

     越前は「ん、」と短すぎる返事をして桃城の背中に飛び乗る。
     越前の体は軽いが背負った責任は重い。

    「やっぱりー……死んじゃいけねぇな。いけねぇよ。生きてればどうにかなるって。たぶん」

     桃城は新たな決意を胸に歩き出す。
     しかし桃城はあることから目を背けていた。
     ゲームの中で生きるということは人を殺めること……。支給されたジャックナイフは鞄の底に仕舞い込んでいる。

     そんな2人を遠くから見つめる者がいた。

     氷帝の天才・忍足だ。桃城とは違いゲームの本質から目を逸らさず覚悟を決めている。相棒、いや、思いを寄せている向日を守るために。
     草むらに隠れ向日に支給された双眼鏡を覗き、山から降りてくる桃城と越前の様子を伺う。

    (あのおチビちゃんは動けんようやな。桃城は元気そうやが武器を持ってない……油断を誘うため隠し持ってるのか?うーん、そうは見えんなぁ……。殺意が感じられん。『乗ってない』ヤツやな)

     勝利を確信した忍足は支給されたベレッタM92Fのグリップを強く握り締め手に馴染ませる。

    「がっくん。あいつらおっかない顔してこっち来よるで」
    「ひぃっ!」
    「隠れとき」
    「あぁ、うん……」

     向日は震えてうずくまり、世界を遮断する。

    (あぁ……可哀想な岳人。俺の岳人。どんな手を使っても守ってやるから安心してや……)

     忍足は向日にメモを渡し、スタート地点からほど近いエリアで待つと伝えたが、向日は指示に背き単独行動をした。

    (支給されたのが双眼鏡でエラいイラついてたなぁ。その後不動峰のヤツの死体見てキャアキャア叫んで……本当に可哀想やったわ)

     このゲームにおいて心を閉ざすという能力は恐怖でしかない。ダブルスのパートナーかつ
     友達である向日すら裏がある気がして信用できなかった。

     裏切りは想定内だったので、尾行して向日が1人怒鳴ったり絶望したりするのを楽しんでいた。夜が明けた頃、偶然を装って姿を現した。
    「岳人!ここにおったんか……よかった。もう会えないかと思ったわ……よかった……っ」と涙を浮かべ声を震わせ渾身の演技まで披露して。

     忍足は人前で涙を流したことがない。向日にとってかなり衝撃的な光景だった。

     向日は「メモをなくした」「俺もずっと侑士を探してた」なんて必死に嘘をついて、いや、弁解をした。忍足には素直で可愛らしいモノに見える。

     背中に羽があるかのように自由に空を跳ぶ向日。どこか遠くに消えてしまわないか心配だった。鳥籠に閉じ込めてしまいたいと思うようになったのはいつからだろうか……?

    「絶対守り抜くから、離れんといてな」
    「うん……」
    「もうどこにも行かんといて……」
    「わかった……」

     忍足の言葉に向日は深く頷いてしがみついた。彼の羽は折れてしまった……。

    「あぁ、でもここじゃちょっと危ないな。せや、あの岩陰に隠れとき」
    「……」
    「そうそう。そこなら大丈夫そうやな」

     向日は忍足の指示に素直に従うようになった。すっかり口数は減り上手くいかない時に「クソクソ!」と叫んでいた人物とは思えない。

    (おてんばな岳人エエけどおしとやかな岳人もかわええなぁ)

    「あと目ェ瞑っとき。あいつら血だらけや。もう誰か殺したんやろうなぁ……怖い怖い」

     もちろん嘘だ。桃城と越前は『人殺し』だから『殺していい』と思わせなくてはいけない。向日は悲鳴をあげてキツく目を閉じ耳を塞ぐ。

     向こうから何も知らずやって来る2人の前に、銃を構え殺意を隠さない忍足が立ちはだかる。

    「その1年。怪我してるんか?」
    「あ、忍足さ……」
    「答えろや」
    「怪我はしてないけど、動けないんス……」
    「ふーん。そうなん?」

     忍足の異様な雰囲気に桃城と越前は息を呑んだ。
    「答えを間違えたら殺される」「怪しまれる行動をしてはいけない」と思ったがそれは間違いで、忍足は確実に2人を殺めるつもりだった。

    「ずいぶん大きい荷物背負ってるなぁ。ずっとそうなん?大変やなぁ」
    「ッ!!」

     桃城はカッとしたがなんとか堪える。

    「桃先輩」
    「な、何してんだよ!」

     越前は身をよじって桃城の背中から降りた。

    (オレがいたらー……お荷物がいたら大切な先輩が逃げられない)

     「逃げて」と小さく呟いたのと同時に、越前は胸を撃たれた。

    「え、越前ーーーッ!!がはッ!」

     桃城も絶叫したのと同時に弾丸の餌食になる。

    「せっかくの逃げるチャンスだったのに無駄にしたなぁ……。はぁ、あっけないわ……」

     あの越前リョーマと桃城武が一瞬で死んでしまった。
     忍足は向日を守り抜くと誓っただけで快楽殺人鬼ではない。込み上げてくるのは虚しさだけ。……しかし覚悟は揺るがない。

    「2人も殺しといてメソメソするのはナシっちゅうわけや。堪忍な……」

     忍足はかつてのライバルに背を向け向日の元へ歩き出した。



    ✳︎✳︎✳︎



     越前の死に大人たちは怒鳴り声をあげた。

    「クソッ!あのガキに2000万賭けたのに!!」
    「はぁ、期待外れだったな」
    「チッまあいい。亜久津にも賭けてるからな」

     大物政治家、大企業の社長、各国の要人たちもこの島に来て校内のモニターでゲームを見ていた。配信で見ている者もいる。
     教師陣はただ黙ってモニターを眺めていた。


    死亡 越前 リョーマ(青学)
       桃城 武 (青学)
    【残り 50人】


    13.GOOD FRIEND(大石・菊丸)


    そういうの、あんまり信じたことないけどさ、来世があるなら……生まれ変わっても大石といたいなって……思ったことはあるよ。なんてね。



    ✳︎✳︎✳︎



     青学ゴールデンペアの2人は海がよく見える崖にいた。菊丸が急に海を見たいと言い出したのだ。無言で寄せては返すさざ波を眺めていると、嫌でも放送が聞こえてくる。

    「1日目12時の放送を行う。よく聞くように。まずは死亡者の発表だ。
    青春学園中等部 乾 貞治。立海大付属 柳 蓮二。青春学園中等部 越前リョーマ、桃城 武。以上だ」

     仲間の死に菊丸はついに精神が崩壊し子供のように大声をあげて泣き出した。

    「うわぁああああああん!いやだよぉおお!!いぬい……乾っ!!おチビッ、桃ーッ!!もうやだよ、帰りたいよぉ」
    「英二……」
    「返してよっ、みんなを……かえしてよお……!!」

     大石は禁止エリアをメモしようとした手を止め、絶叫する菊丸を宥めようとしたがそれすらやめた。どんな慰めも優しい言葉の綺麗事にしかならない。

    「……行こうか」
    「行くって?どこに?」
    「俺たちならどこにでも行けるさ。誰にも支配されない自由な場所に……」
    「この島にそんな場所ないよっ!」
    「いや、あるさー……」

     泣きじゃくっていた菊丸だが、大石の哀しいほど優しい笑顔に全てを理解する。

    「そだね、大石。行こっか」
    「急ごう。海堂と桃と越前が待ってる。そしてみんなで手塚たちを迎えてやろう」

     2人は荷物を置いて手を繋いで歩き出す。思い返せば手を繋いだのは初めてのことだった。

    「大石……」
    「英二……」
    「今までありがとう」
    「やめろよ。お別れみたいだろ……」
    「あははごめん。じゃあー……大好きだよ大石」
    「俺もだよ。ずっと一緒だ」

     2人は手を繋いだまま迷うことなく身を投げた。

    「以上が禁止エリアだ。そして追加で死亡者を発表する。青春学園中等部の大石秀一郎と菊丸英二の2名だ。自殺なんてみっともない真似はしないように。以上」



    死亡 大石 秀一郎(青学)
       菊丸 英ニ (青学)
    【残り 48人】



    14.背徳のシナリオ(裕太・観月・赤澤・不二・手塚)



     2人が飛び降りた時、必死で叫んでいた人物がいた。不二裕太だ。

    「大石さんー!菊丸さんー!!やめてください!!自殺なんてしないでください!!やめてー……くだ、さ……」

     そして、2人の背中が消える……。


    ✳︎✳︎✳︎


     金田の死をきっかけに裕太は兄の周助を探しに行くことにした。
     観月は「やはり君も僕を裏切るんだね」と裕太を突き飛ばし教会から追い出した。
     想定した反応だがやはり辛い。この状況で1人になるのは恐ろしかった。闇雲に走り回りようやく兄の居場所を知る手がかりになりそうな大石と菊丸を見つけたのに……。

    「ど、どうして……なんでだよっ!」

     裕太は膝から崩れ落ち、拳を握りしめる。
     たった1日でどれだけ大切な人を失うのだろう?

    「帰ろう……観月さんの所へ。ちゃんと謝ったら許してもらえるかもしれない。観月さんならみんなが助かるシナリオを書いてくれるはず……観月さんなら……」

     思い出すのは突き飛ばされた時の冷たい表情。もう一度優しい眼差しで見つめられたい。
     観月に頭を支配された裕太は意志のない人形のようにフラフラと教会を目指した……。


    ✳︎✳︎✳︎


     教会で観月は外を眺めながら毛先をいじっていた。

    「お、おい……?」

     心配そうに、いや、怪訝そうに赤澤が覗き込む。
     兄を探しに行きたいという裕太に激昂し追い出したというのに妙に落ち着いていて怒りも悲しみも感じられない。観月が壊れてしまった……赤澤はそう思ったが……。

    「彼はー……裕太くんはもうすぐ戻ってきますよ」
    「え?」
    「この島で約束もなしに会いたい人に出会える確率は低い。禁止エリアが増えると出会える確率は上がりますが、それまで裕太くんが平常心を保てるとは思えない。
    後悔して、絶望して、傷ついて帰ってくるでしょう。そんな彼を優しく受け入れれば、もう僕に逆らえない。追い出したのも計画のうちですよ。
    彼は傷ついた分強くなる……僕たちの明日は裕太くんにかかってるのかも知れませんね」

     観月は裕太の純粋な心と逞しい体を欲していた。いやらしい意味ではなく芸術品をコレクションするように手元に置きたかった。そのために自らの美貌を磨き上げ、思わせぶりに熱い目で見つめたり急にそっけなくしたりという方法で裕太の気を引いた。
     恋愛経験が少ない裕太に過度なアピールや特別扱い・贔屓は必要なかった。軽蔑される原因だ。

     あともう少しで届きそうだった裕太。この狂ったゲームで物にできそうだ。

    「お前っー……!!」

     赤澤の背筋がゾクリと震える。どんな目で見られても、後ろ指を刺されても構わない。しかし裕太を手に入れることは最優先事項ではない。
     今は生き残ることだけ考えなければいけない。

    「金田がー……」
    「はい?」
    「金田が出て行くことも……死にこともわかってたのか!?」
    「それはっ……!!」

     観月の美貌が歪む。様々な思いがよぎり込み上がる言葉を飲み込もうとしたができなかった。

    「金田くんは……あなたのせいですからね……」
    「なっ……それはどういう意味だ!」
    「この後に及んでまだわからないんですか!?あの子は……!」

     「あなたを好きだった」。その一言が言えない。
     本人が死ぬまで隠していた思いだから観月も胸にしまうことにした。

     赤澤も金田に思いを寄せていたのに、金田の熱い視線に気づかなかった。切なく震える唇に見向きもしなかった。いや、正確には見ないようにしていた。
     赤澤はやや保守的な家庭で育った。海外の映画や音楽を楽しむには親の許可が必要だったし、同性愛も『差別してはいけない』けど『身内から出すわけにはいかない』という扱いだ、それゆえ金田に恋心を抱く自分を押し殺し、わざとらしいほど「部長として」「後輩だから」「男同士で」と2人の関係をカテゴライズして距離を置いた。
     金田は真に受けて傷ついたが、テニスの実力で距離を縮めようとしたので聖ルドルフの強化に繋がり良い一面もあった。別れただフラれただのを部内に持ち込まずに済んだのも大きいと観月は考えていたが……今は少し後悔している。

    「なんでもありません」
    「なんだよ、言えよ!」
    「……死んだ金田くんのためにできるのはあなたを生かすこと。それだけです。もちろん僕も生き残るつもりですし、木更津と柳沢と野村もね。選ばれた僕たちなら不可能ではない。どんな手を使っても、必ず……」

     その時だった。銃声がしてステンドグラスが粉々に割れる。

    「うわああっ、なんだ!?」
    「クソッ、誰だ!?」

     割れたステンドグラスから入って来たのは銃を手にした周助と後ろにいるのは手塚だ。

    「なっー……なんです急に!
    「気づかなかった?話は聞かせてもらったよ。ずいぶん大きい声で話してたから。裕太をわざと傷つけ操り人形にしようとしてたんだね……」

     銃口を観月に向けながらゾッとするほど美しい笑みを浮かべる周助。

    (死の天使だー……)

     赤澤は場違いなほど美しい周助をそのように例えた。

     殺意に満ちた周助に対抗するため、観月も小銃を構えるが勝敗は決まったように見える。
     周助の銃はニューナンブM60で大東亜国の警察も使用している物だ。それに対し観月の小銃はジュニングスJ22。欠陥品が多い粗悪な銃として悪名高いシロモノだ。

    「さっきのが君の本心かい?」
    「……えぇ。生き残るためには仕方がないことです。今までの人生もそうだったでしょう?誰かを蹴落としたり、利用したり……ないとは言わせませんよ。そこまでしなきゃ手に入れられないモノがある。僕が最低限の犠牲で、っ!!」

     話の途中で周助が天井に向けて発砲する。バリン!と派手な音を立てて電灯が割れガラスの雨が降る。

    「わかったー……もういいよ」

     再び観月に銃口が向けられる。赤澤が立ちはだかって庇おうとした時だった。

     パァンー……!!

     無慈悲な銃声が教会に響く。観月は言葉もなく床に倒れ動かなくなった。

    「ぬぁああああああーっ!!観月、観月ーーーッ!!」

     手塚には銃声より赤澤の咆哮の方が大きく聞こえた。

     赤澤はもう2度と返事をしない観月を必死に揺さぶり何度も名前を呼ぶ。

    「起きろよ、起きてくれよっ!!『みんな』で生きて帰るシナリオを考えたんだろ……?なのに、なんで、なんでだよっー……!!お前ら、なんてことをー……『みんな』助かったかもしれないのに……!!」

     観月が言う『みんな』は聖ルドルフの生徒7人だが、赤澤はこのゲームに参加した生徒全員を指していると思っていた。憎悪がこもった目で不二と手塚を睨む。

     不二の目的は観月に復讐すること。試合で弟を利用したことを反省し、ゲームの中で助け合うと誓ってくれたなら結果は違った。
     手塚はそんな不二と行動を共にしただけで2人とも赤澤になんの恨みもない。

    「裕太を犠牲にして……傷つけてまで生き残ろうとは思えないよ」
    「っ、それはー……あまりいい言い方じゃないが……しょうがないだろ。俺もこれが最善の方法とは思えないが、綺麗事だけじゃ生きられねぇ。話も聞かずに撃つなんて、許せねぇ……ッ!!」

     不二も観月と赤澤の言い分は十分理解できた。ただ、弟が犠牲にされるのが耐えられなかっただけ。もし関わりのない生徒が犠牲になっていたら……?きっと観月を殺害することはなかっただろう。
     覚悟を決めて引き金を引いたはずなのに、目標を達成したはずなのに不二の胸には虚しさが広がっていく。

    「殺すー……殺してやる!!」

     赤澤は観月が撃たれた衝撃で落としたジュニングスJ22を構える。

    「構わないよ」
    「おいっ!」

     背後で手塚が鋭い声を上げる。目標を達成した不二は罰を受け入れるつもりで銃をゴトッと捨てた。しかし赤澤の目には「お前を殺すのに銃を使う必要はない」という意思表示に見えた。

    (俺はー……テニスでも殺し合いでもコイツには勝てないー……)

    「はは、はー……もう、いいか。俺もお前らも地獄行きだ」

     赤澤は自分のこめかみに銃口を当て、そのままそっと引き金を引いた。

    「っ!!」
    「待てっ!!」

     パァンー……。
     再び鳴り響く銃声。不二は自分に弾丸が打ち込まれる覚悟をしていたが予想外の結末に愕然とした。美しい教会があっという間に血の海に変わる。

    「手塚ー……そのうち裕太が戻ってくるよ。これ以上巻き込まれたくなかったら……すぐに出て行った方がいい」
    「いいや。俺はー……ここにいる」
    「そうー……『ありがとう』って言うのも、おかしいかな」

     不二は教会の裏にニューナンブM60を埋め、『おとしもの・わすれもの』のラベルが貼られたカゴからライターを取った。

     それからしばらくするとギギギー……と音を立てて重い扉が開き肩で息する裕太が飛び込んで来た。

    「観月さん!部長!!う、うわぁあああああッ!!なっ、兄貴、手塚さ……こ、これは、な、な、なんでっー!?」

     目の前の惨劇に裕太は絶叫した。

    「裕太ー……僕たちは来た時には、もうー……」
    「そんな!!誰がこんな酷いことを……許せねぇッ……!!はっ、2人はどうしてここに……!?」
    「もちろん裕太を探しに……。本当は裕太を待ってるつもりだったけど、遠くから銃で攻撃されて……撃たれそうになって逃げたんだ。その途中で手塚と会ってね。2人でルドルフの生徒が集まりそうな場所を回ってたんだ。そしたら……こんなことに……」
    「うぅ……そうだったんだ。ありがとうございます……」

     泣きながらも深々と頭を下げる裕太を見つめる手塚。話を合わせるが縁起はせず無言で頷いた。

    「裕太こそ、どこに行ってたんだい……?心配したよ」
    「俺も……兄貴を探しに……。でも見つからなくて、どうしていいかわからなくて戻って来たら……うっ、うううー……。お、俺も、みんなと一緒に死ねばよかった……」
    「お願いだからそんなこと言わないで。みんなの分まで生きよう?僕が裕太を守るからー……ってこんなモノじゃどうにもならないね」

     不二は悲しげに笑ってポケットから取り出したのはあのライター。
     そして2人は抱きしめあって泣いた。あまりにも美しい光景で手塚はつい見惚れてしまう。作り物だとわかっていても。
     またしても手塚は見ているだけだった。不二の真っ赤な嘘に嘘も肯定もしない。

    「ここを離れよう」
    「そんなっ。2人を置いていくなんてー……!」
    「辛いけどお別れしよう。犯人が戻ってくるかもしれない」
    「せめて埋めてあげよう……このままじゃあんまりだ」
    「『僕たち』もそう思ったけど道具がなくてね。ねぇ、手塚?」
    「あぁ……」

     ふいに話題を振られ、手塚が頷く。試されているような気がした。

    「花を飾ってあげよう」
    「あぁ……観月さんが好きな薔薇じゃないけどきっと喜んでくれるよ」

     3人は教会を囲むよう咲いている花壇やプランターの花を手折って観月と赤澤の胸に備えた。不二はマーガレット。裕太はペチュニア。手塚が選んだのはアジュガ。手と手を取り合うよう重なる青紫の小さな花で、花言葉は「強い友情」なのを手塚は知らない。

    「行こうか」
    「うう……グスッ……」

     手塚はようやくバッグから支給品の武器、裁ちバサミを取り出した。2人を庇うように、守るように前を歩く。



    死亡 観月 はじめ(聖ルドルフ)
       赤澤 吉朗 (聖ルドルフ)

    【残り 46人】


    15.シンデレラたちへの伝言(桜乃・小坂田・忍足・跡部・樺地)

    桜乃と小坂田は島をひたすら歩き回った。初めはもちろん越前を探していたが、薄々出会える確率が低いことに気づき出し、いつしか現実逃避のために歩くようになった。
     無計画に動き回った2人はなぜか森の中にいた。そして暑さと疲労のせいで支給された水を飲み干してしまった。バスの中で飲んでいたお茶が少し残っているだけ。
     小坂田は散弾銃から手を離さず器用に地図を開いた。

    「マズいわね……これじゃ熱中症で倒れちゃうわ。水の調達が先ね。この森を抜けたら川があるみたいだから行こう!」
    「でも、飲めるのかな……?」
    「う〜ん……どうかしら」
    「とりあえず行ってみよっか」
    「そうだね」

     今度は川を目指すことになった2人。
     地図では近くに川があるように見えるが中々辿り着かない。桜乃は額に滲む汗をピンクのハンカチで拭きながら「お風呂に入りたい」と呟いた時だった。

     聞きたくもない12時の放送が始まる。そしてー……『青春学園中等部 越前リョーマ』と、その名前が呼ばれてしまった。

    「そ、そ、そんなっー……嘘よ、いやぁああああー!!」
    「さ、桜乃!落ち着いて!!大声で叫んだら誰か来るかもっ、」
    「リョーマくん……おばあちゃん……どうして!?なんで!?私たちがどうしてこんな目に遭わなきゃいけないの?もうイヤ!」
    「お願い。静かにして、じゃないと」
    「あははー……あは、はははー……」

     桜乃は長い髪を振り乱して絶叫したかと思えば笑い出した。か弱い少女の心はついに限界を迎えてしまった。
     小坂田も『王子様』と先輩の死に打ちひしがれ、泣き喚きたかったが悲しみより後悔が大きい。

    (私とリョーマ様の間には鳳って人しかいなかった。学校を出てすぐに探しに行ったら見つかったかもしれないわ。でも……もしリョーマ様がゲームに乗ってたらどうしようって思って……怖かったの。
    リョーマ様を疑うなんて最低よね。そのくせ今さら探そうっていうのは酷い話よ。全部私のせい……自分でもわかってる。……私が信じられるのは桜乃しかいないみたい。
    でも、アンタはー……ねぇ……)

    「あははー……うん。リョーマくん、わかった。そっちにいるのね」
    「ちょっと!!どこ行くのよ!!」
    「待っててね、リョーマくんー……」

     桜乃は小坂田のことなど見えていないように笑い続けていたかと思えば急に走り出した。
     身体能力は小坂田の方が上のはずなのに、理性というリミッターが外れた桜乃は凄まじいスピードで森を駆けていく。小坂田はかすり傷を作りながら必死で追うがどんどん距離が離れていく。

    「待ってー……行かないでっ!」

     小さくなる背中に必死で叫ぶがやはり届かない。ついに木々に隠れ見えなくなってしまった。それからすぐに近くから銃声がした。

    「え……ま、まさか……」

     浮上してくる『ある可能性』を打ち消しながら小坂田は走り続けた。そして森を抜け目指していた川にたどり着くと桜乃が胸から血を流して倒れていた。それを見ている氷帝のジャージを着た眼鏡の男。感情のない表情をしていた。
     手には水が入ったペットボトルと銃。彼も川の水を汲みにここまで来たのだろう。そして鉢合わせした桜乃をー……。

    「きゃあああああっ!!桜乃、さくの……!!アンタがやったのね!」

     小坂田が散弾銃を構えるも忍足は表情を崩さない。

    「お姫様がもう1人おったわ」
    「何言ってるの!?よくも……よくも桜乃をー……!!」
    「ごめんなぁ。許してくれとは言わんで。でも悪いことしたと思ってる。だから伝えてほしんや。そこのお姫様と王子様にー……」
    「うわぁああああーっ!!」

     小坂田は忍足を殺すつもりで引き金を引いた。いや、引こうとした。親友の仇とは言え人を殺めることへの躊躇いが思考や行動を鈍らせた。
     その隙を突いた忍足は容赦なく小坂田に2発の弾丸を打ち込む。

     パンッ!パンッ!

    「かはっー……!!うぅ……」

     小坂田が倒れて動かなくなったのを確認した忍足は向日の元へ急いだ。



    ✳︎✳︎✳︎



    「ううう……痛い、痛いよ……」

     小坂田は激痛の中目を覚ました。真っ先に飛び込んできたのは親友の遺体。再び意識が遠のきそうになる。
     死亡したかと思われた小坂田だが、実際は倒れた時に頭をぶつけて気絶しただけだった。

    「行かなきゃ……桜乃の仇を取らなきゃ……!!力を貸してくれるよね……?」

     小坂田は桜乃を背負い散弾銃を杖代わりにしてなんとか立ち上がる。撃たれた箇所に激痛が走り鮮血が溢れスカートを汚す。
     どこにいるか見当もつかない忍足を見つけ出し復讐するためゆっくりと歩き出す。

    「ありがとう桜乃……ありがとう……絶対に殺すからね……」

     正気を失った小坂田は川の上流を目指すことにした。理由はない。憎き忍足がいるような気がしたのだ。
     血の道を作りながら必死に歩き続けると、向こうから走ってくる人物がいた。氷帝の跡部が尋常ではない様子の小坂田と背中でぐったりしている桜乃の身を案じて駆けつけたのだ。

    「おい!怪我してるのか!?」
    「ひっー……!!」
    「っ、落ち着け!」
    「桜乃の仇よ!死ねっー……!」

     仇の証である氷帝のジャージを見て小坂田は血の気が引いたが、怯むわけにはいかない。
     跡部に向かって散弾銃を発砲した。しかしー……。

     ズガァンーッ!

    「きゃあっ!!」

     散弾銃の反動に耐えきれず大きく転倒した小坂田。銃弾は跡部に当たることなく岩にぶつかった。散弾銃を拾いもう一度発砲しようとするも、力が残っていない。桜乃と横たわるような形で河原に突っ伏したまま動けず、顔を上げることするできない。

    (あぁ、私、ここで死ぬんだー……)

     意識が遠のいていく。いつしか視界が真っ白になってー……。



    ✳︎✳︎✳︎



     跡部と樺地も水を求め、川の上流にやって来た。少し時間と場所がズレていたら忍足と鉢合わせしていたとも知らずに。

    「跡部さん!」

     銃声を聞きつけた樺地が血相を変えて駆けつけて来た。跡部はただ一言「無事だ」と告げる。

    「では、この人たちは……跡部さんが……?」

     樺地の声が僅かに上ずる。跡部にしかわからない程度に。

    「俺が殺ったんじゃない。2人とも誰かに撃たれていて……コイツは亡くなった竜崎監督の孫を背負っていたんだろう」
    「……」
    「そして俺を誰かと間違えて撃ってきた。当たらなかったがな。それで事切れたんだろう」
    「……」
    「……」

     少女らの遺体を前に2人の間には重苦しい沈黙が広がる。苦悶の顔で永遠の眠りについた少女らは一体どんな夢を見ているのだろう。
     樺地は瞼を閉じ掌を合わせた。

    「……何を祈ってるんだ?」
    「せめて幸せな夢を見ることができるようにと祈りました」
    「そうか。……行くぞ樺地」
    「ウス」



    死亡 竜崎 桜乃 (青学)
       小坂田 朋香(青学)
    【残り 44人】







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