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    haraki_dummie

    現在はHades中心 https://twitter.com/haraki_dummie

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    haraki_dummie

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    文字のリハビリでも。Zagが気持ちに気が付いた時のやりとりこんな流れかな? 支部に投稿したものに入れ替えました~頭数になればいいと思います

    #ザグタナ
    zagtana

    雲の切れ間万物を迎える為の穴が展開された。鼓膜を揺さぶる不快な共鳴音と共に、緑青の草地が真紫に染まる。その毒々しい力場に魅入られるかの様に足をふらつかせながら踏み込んだかつての英雄は、何処からともなく飛んできた黄金の矢に真正面から射貫かれた
    「そこに入ると危ないぞ」
    細長い指と柔軟な関節を巧に利用して矢を二本番えた声の主が、大振りの弓を携えながら【的】に向かって呼びかける。間髪入れず斜に構えると、狩人は弦を撓らせ、矢を見舞った。
    鬼火となった的は、音もなく輪廻へと戻る。
    永遠の楽園エリシウムの一角で繰り広げられていた名もなき英雄との攻防は一旦の終息を迎え、
    そこに残ったのは、高台に切り裂かれる風の唸り声と、戦士の残滓、狩人、そして黒衣の死神だった。



    「今ので最後のようだな」
    「また俺の勝ちだな!」
    ふう、とため息をつき、死神が大鎌を弄ぶように回しながら手慰む。
    「良い気分転換になった。怪我はないか、ザグレウス」
    何処か気怠げな口調で死神が俺に向かって呼びかける。
    「お蔭様で!擦り傷一つないよ」
    少しばかり離れた距離から俺は答えた。返事が聞こえたのだろう、風と共に死神が鼻で笑う声が聞こえてきた。
    彼の所在を確かめようとあちこち見回すと、目的の人物と目が合う。
    名前はタナトス。死神と呼ぶに相応しい精気のない銀鼠の肌に、刃を思わせる揃えられた銀髪、鋭い金色の眼。彼を知らなければその恐ろしい容姿に震え上がるだろう。其の実、家族思いの良い奴だ。
     視線に気が付いたのか、ふわりと浮き上がっていた死神は高度を下げ、地面に降り立つ。意図を察した俺は、草を焦がしながら足早に彼に駆け寄った。
    まずは互いの健闘を讃え、拳を突き合う。常に時間に追われる彼とこうして互いに地に足をつけて会話ができる事は稀だ。今日は暫く話せる時間があるのだと思うと、俺は心が弾む。
    「弓の腕も上がったようだな。俺に飛んでくる回数もすっかり減った」
    指先で矢が当たった箇所を彼が指し示しめす。まだ無駄打ちがあると言われているのだが、それでも、開口一番で褒められたことが嬉しい。
    「ありがとう。鍛錬の積み重ねってやつだ……」
    武器を扱う腕は日々の実感できるほど安定してきている。どんな武器を実戦に持ち込んでも手足の様に動いてくれる。つまり、俺も強くなった。
    だから、今日も彼にあの誘いを投げかける。
    「なぁ、タナトス。今度は本気で競争をしてみないか?」
    端正な眉が一瞬動いたが、直ぐに持ち直した。そして彼が口を開く。
    「・・・・もっと強くなったら考えておいてやる」
    戻って来た言葉は以前と同じものだった。
    「もう暫く俺は負けてない!・・・・まだ駄目なのか?」
    率直な疑問を返すと、彼は額に手を当てながら考える仕草をする。
    「お前は拮抗した勝負が好きだろう?一匹二匹の差で勝ち負けが決まるような対等に近い勝負がしたいだろう?」
    「そりゃぁ・・・その方が楽しい」
    その返事は腑に落ちなかったが、確かに勝負をするなら大負けや大勝よりも鬩ぎ合う程度の方が『楽しい』。俺を思ってそう答えた彼の言い分も理解できなくはない
    「そうだろう?お前はまだその実力には到達していない。もっと強くなるんだな」
    俺はもう到達していると思うんだけどな。
    この独白を見抜かれたか、顔に出てしまったのか、肩をそっと叩かれる。これはきっと慰めなのだろう。
    それでも諦めきれなかった俺は、更に食い下がる事にした
    「ここから出るまでに、一度ぐらいは・・・・」
    愚痴る様にそう問うた時、タナトスは顔を背けた。彼がこの話題をあまり良く思っていないのは知っているが、態度に出す事はまず無い。まるでこの言葉から早急に逃げたがっているかの様に身体を翻し、ふわりと宙に浮く。
    ここまであからさまな様子を見せたのは初めてで、何だか俺まで動揺してしまっている。
    いくら焦っていたとは言え、まずい事を言ってしまった。目深に覆っているフードが邪魔をして、横からではその表情をうかがい知る事ができない。
    「そうだな」
    その言葉の続きは聞こえて来ない。
    大鎌にいつも以上の力が加わっているのか、また別の原因なのか、籠手が微かに震えている。
    その様子を見て、俺は急に胸が締め付けられた

    このまま行かないで欲しい。

    声ではない声が自分の胸の奥底から聞こえて来る。これは何だろう?この孤独で寂しい様なは感覚は、何処から来た?
    内なる声に操られ、心に従う様に、俺は彼に手を伸ばした。
    「館で待っててくれるか?渡したいものがある」
    こちらに向いた左手を掴んだ俺は、口走る。どうしてそんな約束を急に伝えた?
    でも、言いたくなった。何故だろう?俺は彼を繋ぎとめておきたい。
    「フン‥‥仕方ない。待っておいてやる」
    鼻で嗤って彼は了承した。そして振り向いたタナトスの手に、脈打つ心臓。
    「これは餞別だ、持って行け」
    いつもの様に表情一つ変えずタナトスは俺を見つめる。
    「気を付けろよ、ザグレウス」
    「・・・ああ」
    幾度となく繰り返されたやり取りが、心地よく感じるのは何故だ?
    雲が天国を横切る音がする。静かで気怠げな霧が足元を通り過ぎていく。
    「館で待っている」
    そういってタナトスは仕事に戻って行った。
    独りになったエリュシオンが、やけに広い。風に煽られ、草と草が擦れる。高さも種類も異なる雑草は複雑な音を奏でた。ざわつく俺の心理を代弁しているみたいだ。
    自分の真意を探る為に暫く立ち尽くしていると、体がすっかり冷えてしまった。

    その最後の言葉が、彼の願いだったらとしたら、この寂しさが埋められる気がする・・・・


    約束どうり館で彼らは落ち合う。冷ややかなタナトスと明るいザグレウスは、その風体も相まって正しく対の存在だった。


    ザグレウスから希少な天上の酒を受け取った俺は、部屋に戻り、6本目のそれを棚に収める為、小さなリビングへ移動した。据えてある古めかしいキャビネットの扉を開け、神への贈り物にしてはいささか可愛らしい飾りが付いたボトルを列の最後尾に加える。蜜色に満たされているそれが6本も並べば、壮観だ。
    ……一本一本、覚えている。我ながら滑稽だ。
    肩をすぼせて大きく深呼吸をすると、同じ大きさのため息が出た。
     先ほどのエリシウムでの態度は、自身でも目に余る。結果として気を遣わせてしまったのだが、それでも、どうしても、あの話だけは彼の口から聴きたくなかった。自己中心的な話ではあるが、自ら話す事は気にならない。しかし、当人から話を切り出されると胸がざわつく。
    先ほど受け取り、棚に収めたばかりの6本目を無意識に手に取り、蝋燭の炎にかざしてしげしげと見つめる。体温の残ったほんのりと温かい瓶の向こう側は、光が乱反射して眩しい。燃える冠を頂いた彼のようだ

    「……手を離せば割れるだろうか」
    独りごちる。
    このまま手を離せば、この瓶は床に叩きつけられ、粉々に砕けるだろうか?
    ヒビが入ってしまうだけだろうか?
    それとも、形を保ったまま鈍い音を立てるだけで、美しいまま残るだけだろうか?
    そして後悔するだろうか?衝動で手を離した事を。‥‥お前はどう思うだろうか?

    俺は再びそれを棚に戻す。手を離す事は、どうしてもできなかった。

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