髪の話 継承し、転魔を果たした身に流れる時間は少しゆっくりとなる。それでも元がヴィータの体である以上、髪や爪は伸びる。
「くそったれ」
鏡を覗き込んだチユエンは、髪をかきむしった。美猴の魔は金の獣だったからというだけでなく、母の言葉を伸びてきた黒い髪は思い出させる。父親によく似た息子に、かつて奪われた恋と憎しみを重ねてしまうと言っていた母の言葉を。だから、故郷では髪を染めていた。
「髪が伸びてくるのが嫌?じゃあ剃ればいいんじゃない?」
「それでも伸びてくるだろ」
「そうねえ。じゃあ、色を変えてみたら?」
「できんのか?」
「アタシに任せなさい。そうねえ、いっそ金なんかいいんじゃない?」
そう言ったヴリトラは、次の日髪を染めてくれた。なぜ染めたいのかを一切聞かず、むしろ伸びてくると彼の方からそろそろ染めたほうがいいとやってきたものだった。
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