そして桜貝は海に潜る そして桜貝は海に潜る・零
「待たせてごめん、みつただ」
「お疲れ様、全然大丈夫だよ。それじゃあ行こうか」
毎週金曜日の夜は一緒に外食する、それが仕事で多忙な自分達にとってのデート。
予定より一時間ほど遅れて、長谷部は光忠の待つカフェへ着いた。急ぎ足で来たからか、顔が熱い。
「帰り際に電話が鳴って」
「あるよね、そういうの」
笑う光忠は、立ち上がると長い髪を手でかき上げると、鞄を肩に掛けながら耳元で囁いた。
「ひとりで待ってる時間、好きだよ。はせべくんの事だけを考えてられるから」
片付けてくる。そう言ってコーヒーカップの乗ったトレイを、さっと奥へ持っていく背中を見送る。まっすぐ伸びた長身と揺れる艶やかな黒髪。洒落たストライプのシャツはぴったりと完璧なスタイルを描いて、こなれたジャケットとパンツスーツ。今日も恋人が素敵だ。
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