その姿を初めて見かけたのは雲深不知処だった。金凌の座学がどうの、魏無羨がなんだと理由をつけては訪れていたが仙督藍忘機と違って沢蕪君はいつもニコニコと迎え入れてくれた。
「賑やかなのは嫌いでは無いから」
家規に反さない範囲でね、と魏無羨と騒ぎすぎるなと釘を刺されはしたが、雲夢江氏の宗主なのだからそれは当然である。
そもそも魏無羨がからかってこなければ、バカなことをしなければこちらとて特別声を張り上げる必要はないのだ。
現にこうして一人の時には足音一つ立てずに歩いている。
藍先生が教えを説いている声がどこからか聞こえてくる。金凌や同じ年頃の公子達が退屈そうに耳を傾けているのだろう、若かりし己らの時代と重ねて密かに笑みが浮かんだ。
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