【東脳】リンとスイギョウ決して、軽率な気持ちでこの引き戸を開いたわけではない。別室に飾られていた地図により、この部屋が宮殿の最深部だということも理解していた。
美しく磨かれた氷で造形された夢見宮殿。様々な映像を目まぐるしく映し出すマガタマ、それを食い入るように凝視する獣たち。その異様な雰囲気に、努めて心を動かされぬようにしてきた。
強い覚悟を決めてこの島に足を踏み入れたリンだったが、玉座の部屋、その中心に悠然と立つ生物を目前にして心が怯む。氷の冷気とはまた別の寒気が身を撫でる。
外で見かけた他の生き物たちとは明らかに一線を画している。その佇まいはリンの背に冷たい汗を伝わせた。
一丈はあろうかというその生き物は突然押しかけてきた人間に驚きもせず、ただユウウツそうな表情で見下ろすのみだった。
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