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    julius_r_sub

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    PROGRESS
    2 カチャリと陶器のぶつかる音がした。部屋の中には茶葉の良い香りが漂っている。
     ローテーブルの向こう側には本日から司の下で参謀として働く類がこちらを見据えて、優雅に、薄く微笑んでいた。初見の印象としては、軍人らしくない男、だった。戦場というものを知らないような、そんな風貌を漂わせていた。

    「大臣から派遣されたんだよな?」
    「えぇ、将校殿のお役に立てればと思います。」

     口調も非常に穏やかで、どこぞの貴族の末子か何かなのではないだろうか。所作の一つ一つにも気品が感じられる。

    「……出身は、どの辺りだ?」
    「東部の方です。」
    「東部…………?」

     衝撃の言葉に、司は眉を顰めた。東部とは、30年ほど前からつい最近まで隣国と戦争が続いていた地域を指す。戦況は年月と共に泥沼化し、3年ほど前にこの国が勝利したという形で終えた。勝利、とはいうものの殆ど停戦協定のようなものだ。この国にとって優先すべき地域が、東部から南部のこの森へと移り、隣国にはこれ以上戦う力が残っていなかった。戦場という役目を終えた東部は、戦前とは変わり果てた荒れた土地のみが残された。あんな場所では普通に生活することも出来ないだろう。悪化していく戦況の中、住民は1人残らず東部を離れるか、そこで命を落としたと聞いている。故に、若い兵士に東部出身の者は殆ど居ない。
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