メロンパン刑事「俺は、メロンパンの呪いにかかっている」
荒れ狂う日本海に煽られて翻るリネンのロングコートの裾をぼんやりと見つめる。
ザパーンと白波を立てながら波打つ水面は、癒やしとは程遠く荒々しい。秋も終わりの日本海はこんなものだろう。たぶん。
手のひらにコロンと乗っかるメロンパンのキーホルダーを忌々しげに見つめると、志摩は小さく息を吐いたのだった。
土産だ、と伊吹の手に例のブツを押し付ける。それを不思議そうに見つめる伊吹はこてっと首を傾げた。
「志摩ちゃんは昨日どこに行ってたの?」
「……海」
「海」
「そう、海」
「あのザパーーンきゃっきゃっうふふな?」
「そう、ザパーンの。きゃっきゃっうふふは知らん」
伊吹の美しい指先に摘まれたメロンパンのキーホルダー。目の前でゆらゆらと揺れるメロンパンのキーホルダー。駅前の古びたお土産屋の片隅にひとつぽつりとぶら下がっていたそれを気がついたら購入していた。俺はこの世のメロンパン全てを救わなくては気が済まないやつか。俺はメロンパンの呪いにかかっている。
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