おはよう、おやすみ、いってきます すっかり明るい空を見て、夏が近いなとスザクは思う。
午前五時三十分。起床時刻にしては少々早いが、スザクにとってはいつものことだ。幼い頃、懇意にしてもらっていた武道教室の師匠の元で生活をしていた時期があり、そのときにすっかり身についた癖のようなものである。目覚ましがなくても、夜のどれだけ遅い時間に就寝したとしても、身体は目覚めの時間をしっかりと覚えているらしい。……引っ越し祝いにと師匠からもらった目覚まし時計は、結局今日も役目を与えられぬまま、かちかちと針の動きを進めているだけだ。
ううん、と腕を大きく伸ばして、スザクは洗面所へと向かった。
スザクが住んでいるのは、通っている大学から徒歩で十五分ほどのマンションである。キッチンにトイレ、風呂、洗面所があり、さらに六畳ほどのフローリングの部屋が三つ。駅から近くはないとはいえ、大学生が住むには贅沢すぎる物件だ。自身のアルバイト代のみで生活費や授業料をまかなっているスザクに、普通であればこんな部屋を借りる余裕などない。
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