無題太陽騎士が振られた
密やかに広まる噂は自然に僕の耳にも入ってくる。
周りからはそう見えてしまうだろう。だがそれは大きな間違いだ。
たしかに僕も彼女に好意を抱いていた。それは拭えぬ真実だし今もそうである。
それは双子の兄も同様だった。決して誰にも見せない、彼女に見せる笑顔や仕草は彼も同じ感情を彼女に抱いていることを見せつけられているような気分だった。
その気になれば僕は彼女に愛を打ち明け、結ばれることもできた。しかし僕はそれをしなかった。
それをしたら居場所を失いかねない。
兄は優しい。あの鋭い眼光からは想像できないほど、彼は優しいのだ。
それは幼少期から変わらない。大人になった今でさえ自分よりも弟である僕を心配している。
優しい彼のことだ。僕が彼女への好意に気づいてしまえば自分の本心に蓋をし、僕に譲るだろう。
そしたら、彼は独りになってしまう。
彼は僕たちに気を使って距離をとってしまう。
それは僕の世界から「兄」という居場所を失うことだ。
それは嫌だ。どこよりも失いたくない居場所。
居場所を、心の拠り所を失うぐらいなら、この手を血に染めても、この心に蓋をしても構わない。
だから僕は兄に彼女を譲った。
兄と彼女が結ばれたのは正直嬉しかった。妬みなんて無い。
みんなは振られたと思うだろうが、僕にとっては真逆なのだ。
二人が結ばれたことで誰も失わず、二人という居場所は増えていく。
これが僕にとっての最善なのだ。