よろこびごと「それで、先生がね……」
細い指でゆっくりとグラスの縁をなぞりながら、目を細めてソローネは語り出す。
おや、とテメノスとパルテティオは視線を交わした。
(これはやはり?)
(そういう事だよなぁ)
彼女がオズバルドの話をする頻度が増えてきた事に、二人は薄々気がつきはじめていた。確かに何かと印象的な学者先生ではある。オズバルド自身が酒の席に加わっていなくても、誰かの口からこの男の話題は必ずといっていいほど出るものだ。だが近頃ソローネが“先生”の事を口にする回数が明らかに増えており、更にその内容が酒の席でするような面白可笑しいものではなく、「朝食の時にオズバルド先生が」「先生がオーシュットと話をしているのを後ろから見ていたら」「最近先生の読んでいる本」など、日常のふとした出来事や彼女の個人的興味によるものが大半を占めているのである。
1938