リー先生と喫茶店で雨宿りする話 激しい音を立て、雨粒が窓を打ち付けている。騒々しい外界には、つい先程までドクターたちがそうしていたように、屋根を求めて逃げ惑う人々があった。
軒先で、濡れた野良猫が身を震わせる。
ドクターの向かいに掛けた龍の男────リーは、それを気に留めてはいなかった。コーヒーか煙かを口に含み、だいぶよれてしまったペーパーバックの頁をめくる。それを何回も繰り返して、喫茶店に入ってからもう二十分が経とうとしていた。
「やみそうにないな」
「そうですねぇ」
通り雨に特有の濡れた土の匂いがする。
苛立ちの象徴とも思えたあの雨音も、落ち着ける空間から聞けば心地よく耳に残るのだから不思議だ。
ドクターは欠伸を噛み殺す。こうして走ったのは久々であった。不快感の中に心地よい疲労が見え隠れしている。フードは大分重くなっていたが、脱がなかった。触れるところどころが冷たく感じる。風邪を引かないと良いが。
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