Recent Search

    高間晴

    @hal483

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 385

    高間晴

    DONEIbのWebオンリーで頒布の8P折本の中身です。
    BOOTHにてデータ配布中→https://hlv483.booth.pm/items/3470528
    大事なレースのハンカチ イヴと別れた後、美術館を出てまっすぐ帰宅する。急いでいたのは大学のレポート提出期限が、アタシを待ってくれないからだ。
    「ただいまー……っと」
     一人暮らしのアパートの部屋に声がこだまする。玄関の鍵を閉めて明かりを点けると、安堵の深いため息が漏れた。あの美術館での命がけの冒険を思い出すと気が遠くなる。こうして生きて帰って来られて、本当によかった。
     命の恩人でもある少女を思い出す。イヴ。美しい響きの名前。それとキャラメルブロンドに赤いスカートのよく似合う、気丈な女の子。あの子がいなかったら、きっとアタシは……現実には存在しない美術館の地下で、誰に知られることもなく息絶えていただろう。
     そうだ、イヴから借りたハンカチ。次に会うまでにきれいに洗濯しておかないと。慌ててコートのポケットをまさぐる。赤黒いアタシの血のシミの付いた白いハンカチだ。血のシミは早めに対処しておかないと取れなくなる。レースのついた上等な代物。材質はコットンで間違いないだろう。広げてみるとレースの精緻な意匠に目を奪われる。あのくらいの年齢の子供に持たせるには少し不釣り合いのような気もしなくもない。
    1551