沖野司の独白 わかってるのさ、君に縋るのはきっと僕の方だと。
なのに、素直になる勇気もない。
過去の記録の『沖野司』に自己投影しては自分を慰め、しかし嫉妬で身を焦がす。
不安でたまらない。
もし、彼が「やはり無理だ」と結論づけてしまったら?「人類のためにも、女性と番うべきだ」と真っ当で理性的な結論に至ってしまったら。
その時僕は、どうするのだろうか。心のうちで自分を選んで欲しかったと子供のように喚き、その実「ああ、そうかい。薄情な男だね」なんて皮肉を一つ吐いて、聞き分けのいいふりをするのだろう。
命を絶つ胆力もないさ。五体が引きちぎれそうな想いを抱えて、幸福な家庭を築く彼の姿を眺めながら、独りの日々を全うするんだ。
394