九七センチメートル 常夜灯より少し明るい灯りに満ちた部屋は静寂が落ちていた。聞こえるのは二人の吐息や布団に身体が擦れる音、たまに窓の外の遠く沿道を走る車の音くらいで、ほどよい響動に浸りながら王子はまどろんでいた。
「そろそろ買い替えるか」
気を抜いたら聞き逃してしまいそうな言葉が頭上から降ってきた。声の主の腕を枕にして、横向きになっていた王子の意識が浮上する。眼球だけを上に動かすと、見慣れた仏頂面が視界に入る。
「……弓場さん。いま、なにか言いましたか?」
「ベッドだ。男二人じゃあ狭っ苦しいだろうが。もういっこでけェのを買ったほうがいいかと思ってな」
今のベッドは下の奴にやりゃあいい、などと独り言ちている。もう決定事項のようだが、王子にはいまいちよく状況が読み込めない。
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