春の花と彼と彼女 ワルイージは自宅の庭で薔薇の世話をしていた。そろそろ肥料を取り替える時期で、その作業に勤しんでいる。
そこに愛しい声が流れ込んで来るのは、春の風が僅かに通り過ぎた後だった。
「此処に居らっしゃったんですね、インターホンを鳴らしてもお出にならなかったので」
「おう、あんたか。悪いな気づかねえで」
「いえ、構いませんよ。クッキーを焼いて来たんです。一緒にいかがですか?」
ロゼッタが手にしていた比較的小さな紙袋を顔の高さまで挙げる。ワルイージの顔にそれを楽しみにしたにやりとした笑みが浮かんだ。
「こいつは上等なティータイムだ。待っててくれ、これ終わらせちまうから」
「とっても綺麗な薔薇ですね」
彼の側まで来たロゼッタが腰を屈め、薔薇の一つにちょんと人差し指で触れた。たおやかな指も相まって、そんな何気ない所作ですら画になる。
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