[nera fiaba01]
空が飛びたいと、願ったことなど一度もない。
けれど艶やかに燃えるあの夕焼けに、娘は触れてみたかった。
朝に揺れる光の天蓋。
夜に降る星の銀貨。
それらは確かに美しく、旅する娘の虚しさを慰めてはくれたけれど。
「でも違うの」
牡丹の大輪がしっとりと散り落ちるような、熱さの中にも凍えた艶を宿すあの夕暮れを目にするたび、娘は心の中でそっと手を伸ばす。
そうして、うっとりと呟くのだ。
「綺麗ね」
娘が立つ場所は、爽やかな風が過ぎ去る丘の上。空には沢山の烏が飛び交い、がぁがぁと騒ぎ立てる鳴き声はうるさい。
燻る煙に、獣の焼ける匂い。崩れたばかりの瓦礫の下には、押し潰された肉片。三つの家が並び、それと同じ数の家族が慎ましく暮らす、村とも呼べない小さな集落は、誰に助けを求める間もなく何者かの手によって滅んでいた。
1799