ニルヴァーナ④④
今日という一日が始まったことをカーテンの隙間から差し込む太陽で知った。
朝は嫌いだ。こいつさえ来なければ自分の体温で程よく温まった布団から出なくていいし、満員電車に無理やり押し込められて、顔を顰めながら知らない連中と体を寄せ合ったりしなくていいのに。
朝が来れば休日でも、どこにいても会社のことが頭を過ぎる。骨の髄まで仕事に支配されているのを自覚してしまって、そう社会に作り替えられた自分が心底嫌になる。
朝なんて一生来なければいいのに。
ただ、今日だけは少し違った。炭治郎が待っていると思えば会社のことなんかすぐ忘れられたし、心が空飛ぶ風船のようにふわふわと浮き立つ感覚さえあった。
いつもより念入りに身だしなみを整える。「今日くらいしなくても平気」とたまにサボるシェービング後のケアも今朝は保湿クリームまで塗った。髪も手櫛で纏めてひとつ括りにしているだけだったのを、きちんと梳かして前髪を軽くヘアワックスで流れをつけた。これで少しは清潔感が出ただろうか。今更ながら炭治郎に少しでもいい印象を持たれたかった。
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