へいわなせかい+
「あーっ、忘れ物しちゃった……ごめんなさいっ、すぐに追い駆けるから先に行ってて~」
「あぁ? 何を忘れたってんだよ」
「お弁当~!」
「いっちばん重要なモンを忘れてんじゃねーよ! クソガキ!」
賑やかなやり取りが静かな庭園に響き渡る。返答待たずに駆け出し、あっという間に城内へと消え行く小さなユルグの背を、盛大な溜息を持って見送ったヘルビンディは、やれやれとばかりに傍の花壇縁に腰を下ろした。
そろそろ花も咲く頃、日中ならば未だ風は冷たくとも日射しは暖かい。厳しい寒さの続く冬は終わり、もうすぐ春がやってくる。となればピクニックがしたい、遠出は出来なくとも、せめて城の庭園で弁当を食べるくらいは良いだろう……などと散々に強請り倒され、他を当たれと言っても聞く耳持たれず、遂には引き摺られて来た ── こんなにも小さな身体であるのに、鍛え上げている己を引き摺るとは化け物かとも思ったが ── その結果が、これか。もう一度溜息を吐いたヘルビンディは、暇を持て余して天を仰いだ。
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