昼間のリビング、ソファの上。背もたれに凭れる俺に身体を重ね、胸板に左頬を当てたまま香はテレビ画面を見つめている。
「行ってみたいか?」
幻想的な風景。海外ではなく日本にある海。
行けない距離じゃない。けど、仕事以外で新宿を離れる選択肢を持ち合わせていない。
「ううん。綺麗だなって見てただけよ」
視線は絡まない。強がりと言うより諦めの方が近いのかもしれない。
「いつか、行けたらいいな」
「えっ?」
頭を上げて見せる香の驚いた表情は嫌いじゃない。いや、むしろ好きな方だと言ってもいい。
「獠も行きたいと思うの?」
「まーな。飛行機じゃなく車で行ける所だしな」
「へへへ、なんか嬉しい」
屈託なく笑う香の唇に触れるだけのキスをする。
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