優しい時間 それは何気もない、いつもの朝。
葵はシャツのボタンを閉めるとタンスにかかっているネクタイを見る。そのうちの2本を手に取った。鏡の前でそれぞれを合わせるがよく分からない。
「千歳ー」
「なに?」
「どっち?」
葵は両手に違う色、柄のネクタイを持ち、千歳に見せる。
千歳は訝しげに葵の顔を見つめると、1つため息をついてから葵の姿をまじまじ見た。
「……どちらも違うわね。そのシャツとそのスーツなら」
千歳は葵のネクタイがぶら下がっている棚から、ひとつ選びとる。
「はい、こっちの方がいいと思うわよ。と言うか、少しは自分で選びなさいよ」
「お前が選んだ方が評判いいんだよ。さすが元お嬢様」
「元じゃないわ、現役よ。現役!」
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