旅立つおてかり小咄「じゃ、彼と駆け落ちしてくるよ」玄関先、居合わせた同僚へ出発を告げる緑頭にっかり顔の斜め上で、「おれはそんなつもりはないんだが」と訂正を入れる跳ねっ毛の呆れ顔。
「三泊四日の駆け落ち、どうぞごゆっくり」卵を混ぜる手を止めてわざわざ見送りに来た眼帯の美丈夫が冗談めかして微笑むと、横から「じゃあおみやは駆け落ち饅頭で、ヨロシクー」と鯰尾がぴんこぴんこ揺れながら乗っかってくる。
そんなふうに囃されながら玄関から踏み出すと、朝の冷たい空気がいつもと違うような気がした。携えるのは自身の大身槍、大脇差ではなく、鞄に入った着替え歯ブラシ、地図や時刻表その他諸々。
ほら見ろあんたの軽々しい発言のせいでネタにされるんだからな。隣を歩く青江の横顔にぼやくと、「二人で連れだって旅行ってだけでも茶飲み話にされるのはわかってるし、先手を打っただけさ」ときれいな毛並みの眉が上がる。
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