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    DONEエアスケブSS/お題:千ゲンで千空がゲンに膝枕+ふとしたきっかけで僅かな身長差が気になりだす千空ちゃん
    ▼石油代集め中・付き合ってない
     その姿を見るのは初めてと言うわけではなかった。
     改めて考えてみても、お得意の口八丁に付属する作られた表情なんかでは、しょっちゅう目にしているように思う。だから今更、というのが千空自身の感想だったのだけれど。


     石油代集めも終盤に差し掛かった、陽射しが優しいある日の昼下がり。ストックしていた筆記用の鉛筆がなくなり、とりあえず竹で炭を作ってしまうかと千空は近場の竹をひとり切りに来た。これくらいの作業であればカセキに頼むほどではないし、竹炭で作られた鉛筆は随分石神村に馴染んだ。いまでは子どもたちが遊び半分で作ったりするほどだ。
     竹の優秀さを改めて考えながら千空が訪れたのは清流が近くで流れる竹林だ。すこやかに伸びた背の高い竹と、生い茂る笹の葉の隙間から漏れ落ちた光が地面に模様を作っていた。寿命を終えて地面を形成する薄茶色の枯れた笹の葉が、千空の行く道のクッションとなっている。先述のようにここではよく子どもたちが遊んでいるのだが、今日は無邪気な声はせず、遠くで川のせせらぎと笹の葉が擦れる涼やかな音がするばかりだ。自然と心が凪いでいく。
    6535

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    DONE水隠水視点の影犬影

    【とても大切なお願い】全てにおいて大目に見てください!!!!!
    「戦術やら作戦のが、よっぽどわかるっちゅうんも変な話よな」
    「いや突然そんな話する水上先輩のがよっぽど変やと思いますけど……? え、おれなんか聞き逃してました?」
     我が物顔で隠岐のベッドに寝転がり、今週発売のジャンプを読みながら水上がぽつりとつぶやいた言葉は、ラグの上に座りベッドを背もたれにしていた隠岐の耳に正しく届いたらしい。
     顔を上げた隠岐の手にはヤングマガジン。互いが別の週刊誌を追っていることを把握した時点で、自身が読み終えたらどちらかの部屋に持ち込んで読み合うのが隠岐と水上の中では定着している。読み終われば二種類の雑誌は生駒隊の作戦室に持ち込んでいるのだが、文句を言われるどころか生駒・南沢・細井が持ち込むモーニング、サンデー、花とゆめも生駒隊の共有財産になっている。ちなみに花とゆめは高頻度で争奪戦になる。そんなわけで生駒隊は資源ごみが多い。
    「なんも聞き逃してないで。なんちゅうか、肯定してもらいたい独り言みたいなもんやった……?」
    「そこ疑問形にされてもなあ」
     話半分に聞いてもいいと判断したらしい隠岐が薄く笑みを浮かべながら視線をマガジンに戻した。水上も別にがっつり話した 5908

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    DONE好き勝手書いたヒプクエパロのろささ
    とある大道芸人のはなし
     よってらっしゃい! みてらっしゃい! この村一番の大道芸人のショーがはじまるでぇ!
     おっ、お嬢ちゃん。今日も来てくれたんやね、ありがとうなぁ。よっしゃ、連日来てくれてるお嬢ちゃんにリクエスト聞いたろ。今日はなに見たい? ん……? おもろい話ししてって……? えっ、ちょ、みんな拍手すんのやめてくれます? おもろい話してって言われてトーク披露すんの大気圏突入する程ハードル上がんねやけど……まあおもろい話するんですけどもね、ってするんかーい! 言うてね! はいはいはい。ここニッコニコで笑うとこやでぇ。よっしゃ、みんなわろたね。ええ子、ええ子。
     おもろい話なあ。じゃあ今日はお子さんらも多いし、この村の隣の隣の隣の隣。そのまた隣の大国に伝わるお話でもお披露目しよか。
     
     とある大国に、ひとりぼっちの魔術師がおったんや。あ、魔術師ってのは魔術が使える人のことな。
     魔術師が住むその大国は隣国と長い間戦争中やった。戦争では魔術を使えた方が有利になる。だから魔術師たちは重宝されて、お給金もたんまり貰えた。でもそのひとりぼっちの魔術師は生まれながらに魔術の才があるのに魔術を磨くことよりも芸事に興 3368

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    DONEノベルティしおり(短編付き)
    千ゲ(復興後if/大杠結婚式の話/クロルリ要素もふわっと含みます)
    「良いものだな、こういう手作り感あふれる結婚式というのも」

     オレンジ色に藍色のインクをぽたりと染み込ませた、そんな空の色が広がり始めた時間帯。柔らかな光を落とす電球は目に染みることなく森の中を照らしている。その明かりを見上げながら、龍水が酷く優しげな眼差しでぽつりとつぶやいた。
     龍水の言葉にゲンは口元に薄く笑みを浮かべた。柔らかな光の中心にいるのは杠と大樹のふたりだ。ふたりは白い服を身に纏っている。賑やかで懐かしい科学王国の面々に囲まれながら満面の笑みを振り撒くふたりに自然と周りの人間も笑顔になるんだから、あのふたりは本当にすごい。プラス思考&マイナスイオン製造機だなあ、とゲンは頬を緩めながら思う。
     正面からワイングラス片手に龍水を見やった羽京が、ハッとしたように顎に手を当て、口を開いた。

    「……龍水。君もしかして、結婚式で寿司職人がその場で握った寿司食べたことある?」
    「ん? あるが?」
    「わー! 当たり前みたいに言ったね! いや当たり前なのか!」
    「バイヤー! えっ、有名アーティストきたりとか」
    「あったな」
    「クルーズ船貸切での挙式は」
    「……そんなこと聞いてどうする」 6359

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    DONEご飯の話をする付き合ってない無自覚の千ゲン(携帯作り軸)④
    続き物です。おわり。
    1:https://poipiku.com/1356905/
    2:https://poipiku.com/1356905/3810517.html
    3:https://poipiku.com/1356905/4001578.html
    「千空、鍋つゆ? 沸騰してるぞい」
    「んなら材料入れてくぞ。キノコ先に入れろ。うまみが増す」
    「あー……ラーメンの時いってたよな、うまみ成分がなんとか……グルタミン……?」
    「よく覚えてんじゃねえかクロム、正解だ。うまみ成分だな。ちなみにキノコに入ってんのはグアニル酸。昆布はグアニル酸。このふたつはめちゃくちゃ相性がよくて合わせっとうまみ爆上がりだ、覚えとけ」
    「はーい、千空先生。鰹節にも入ってなかったっけ」
    「さては相当食うの好きだな、メンタリストテメー。正解だ、イノシン酸な。グルタミン酸、イノシン酸、グアニル酸で三大うまみ成分だ。鍋つゆ沸いたら野菜いれて、もう一回沸騰したら肉な」
    「つみれは?」
    「魚だしな……火はすぐ通るし肉の後でいいんじゃねえか。旨み出してえなら先でもいいが、若干固くなんぞ」
    「先!」
    「あ゙ー、好きにしろ。卵豆腐はあたためる程度な。こっちは固くなんの嫌だろ」
     ゲンは大きく、真剣な表情でこくこくと頷く。
    村人たちに全て配り終わってから、改めて科学チームとゲン、そしてスイカで鍋を食べようとあらためて鍋を作り始めた。お手軽鍋セットではなく火にかけながら具材を投入 4926

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    DONEご飯の話をする付き合ってない無自覚の千ゲン(携帯作り軸)③
    続き物です
    1:https://poipiku.com/1356905/
    2:https://poipiku.com/1356905/3810517.html
    「なあ、ゲン」
    「なあに、クロムちゃん」
     きれいに洗った木の枝を複数本集め、即席泡だて器を作ったゲンになるほどな~と言いながらはクロムはふと疑問を抱いたらしい。ゲンが集めてきた卵を半分ずつにわけ、かしゃかしゃと器の中でかき混ぜながら首を傾げた。器の中でずっしりとした質量の卵が黄色い液体になっていく。
    「これよ、こんなにしっかり混ぜる理由はなんだ?」
     クロムが眉間に皺を寄せながら怪訝な表情で言うので、ゲンは確かになあと苦笑する。
    「多分、できた料理を口に入れたとき……口当たりが滑らかになる」
    「多分……口当たり……」
    イマイチぴんと来ていないクロムに、ゲン自身もあやふやなので申し訳なく思う。料理に関しては詳しくないが、予想くらいはできたのでそう答えたわけなのだけれど。白身の部分が卵はどろっとしているので、黄身としっかり混ぜ合わせなければ火を通した時に白い塊がきっとできるのだ。口に入れたときのとろける食感は卵を濾すことによって成立するのであれば、前段階の卵を溶くのもしっかりしておくにこしたことはない。ただ、口当たりをよくするためだけに労力を割く、というのを石神村のひとたちはやってこなか 5190

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    DONE復興後ifの千ゲ石神千空は理性の男だ、とゲンは思っている。
     自身の倫理観を正しく把握し、己の信念を曲げない。少々口が過ぎることもあるが、基本的に人を傷つけるようなことはしない。他を尊重するのだ。それはおそらく彼が積み重ねたものに帰結するのだろう。
     だから、ふと目を覚ました時に仰向けで眠っていたゲンの顔の横に手をつき、千空がゲンへ唇を落とそうとしていたことは、ゲンにとってまさに青天の霹靂であった。
     ゲンに顔を寄せる千空と鼻先が触れ合いそうな距離でパチリと目があった。赤い瞳の奥に焼けそうな熱を感じ、ゲンは息を飲む。状況が瞬時に理解できず、眠りで弛緩していた身体が強張った。

    「千空ちゃん……?」

     激しく主張する自身の心臓を叱咤して、ゲンは間接照明で淡い色で縁取られた千空を見上げる。刹那、親を探す迷子の子どものような表情になった千空が、唇を避けた勢いそのままゲンの首筋に鼻を埋めた。すり、と懐くように顔を動かされ、ゲンの体がぴくりと反応した。
     なんと声をかけるのがベストなのか、寝起きの頭ではすぐに判断できない。否、寝起きでなくても思い浮かばなかっただろう。
     メンタリストであるゲンは、場に応じて相 2649

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    DONEエアスケブ①🦁の出てくる千ゲ
    🇺🇸出航前、🦁が千ゲ(未満)の関係について考える話
    ※注:ノベライズ2巻の内容を少しだけ含みます
    司の視線の先にいるのは、獅子王司という存在を紛れもなく掬い上げてくれたふたり──千空とゲンだ。
     ふたりは今、道の真ん中でアメリカに向かう出港準備の打ち合わせをしている。やっぱり俺も行くべき? なんてゲンのへろへろとした声が司の耳に届いたので、自然とふたりの元へ視線が向いてしまったのだ。
     千空はと言うと、何を馬鹿なことを言ってるんだとばかりに物言いたげな目をゲンに向けている。それだけでしっかりゲンも読み取り、だ・よ・ね〜と肩をがっくりと落としていた。
     司は船に積み込む荷物を両腕に抱えながら、ふたりの様子を微笑ましく眺めた。あまりにもふたりが並ぶ様がしっくりくるので、羨ましさすら感じるほどだ。
     ゲンが科学王国サイドへつかなくても千空の科学は発展していただろう。それでもゲンがいたから発揮できたマンパワーがあることを、司は眠る前にも、目が覚めてからも、すでに何度も目の当たりにしている。名コンビだなあ、と心の底から思う。そんなふたりが司へ心を砕いてくれることに改めて喜びも感じるわけで。
     千空とゲン、ふたりの関係性は既視感のようなものさえ感じる。だけど、司はなかなかふたりの関係性に当て嵌 5697

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    DONEご飯の話をする付き合ってない無自覚の千ゲン(携帯作り軸)②
    続き物です
    1:https://poipiku.com/1356905/
    ぽいっとこぶし大の石を適当に投げる。放物線を描いて地面に落下した石の鈍い音と同時に、ばさばさっと羽を散らし野鳥が秋空へ飛び立って行った。その鳥の背中をゲンは草の茂みに隠れて見送る。
     息をひそめ、鳥がすぐに戻ってこないことを確認し、ゲンはそっと茂みを進む。生い茂る雑草をかき分け、たどり着いたのは先ほど飛び立った鳥がいただろう場所だ。ゲンの腰の高さまである草の中で、不自然に草の高さが低いところ。

    「み~っけ」

     両手を合わせ作るお椀サイズくらいだろうか。ゲンが見つけたのは野鳥の巣だ。今飛び立って行った鳥が一生懸命作ったのだろう。枯草や木の枝などで器用に作られた巣の中には卵が六つ。巣を見下ろせば影が落ちた。ドラマなど敵に襲われるときの描写でよくみるな、となんとなく思い出し、紛れもなく自身が敵だということを自覚してゲンは苦い笑いを浮かべた。

    「俺の欲望のために本当にメンゴ……でも有難く頂戴します!」

     草の中でしゃがみ込んで、ざらりとした表面の卵をやさしく手に取った。それをゲンは枯草を緩衝材代わりにして包んで、持ってきたカゴの中にそっと入れていく。
     これが本日発見した四つ目の巣だ。 6602

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    DONE恋愛デトネーション無料配布
    プロヒ爆轟(全年齢)
    「ベッドから出られない爆轟の話」
    足先を擦り合わすと肩までかけていた布団がずれ、肌寒さを感じる。轟はまだ重たい瞼を無理やり押し上げて、もぞりと顔を動かしヘッドボードの時計を見やった。はらりと落ちてきた横髪が鼻にかかってむず痒い。それを雑に払い除けて時刻を確認する。
     現在、朝の六時四十三分。昨夜きっちり閉めた遮光カーテンからは少しの光も漏れていない。カーテンなんてなんでもいいだろ、という轟に対し、寝室は絶対に一級の遮光カーテンじゃないとダメだと譲らなかった爆豪のお陰で、轟は案外夜になっても明るい住宅街で早い時間からでも安眠を貪ることができている。
     今日はプロヒーローとして活躍するふたりのオフが珍しく合った。特に何をするかは互いにここ数日忙しく話せていないが、どうせ手が回っていなかった家の中の掃除から始まるのだろう。それでも同じ時間を過ごせるならいいと思う。
     上体をむくりと起こしてから轟はまだ覚醒し切らない脳で隣で眠る爆豪に視線を落とす。眠っている時は比較的穏やかな顔をしている爆豪だが、いま轟の視界に入る爆豪の表情は少々険しい。
     寝苦しいのだろうかと暗いままの部屋の環境を確認してみた。キングサイズのベッドで寝室はほ 1746

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    DONE🇫🇷とゲの合流後の夜の話
    千ゲン(特殊設定有り)
    くこみさん(@kuko14kuko )のこちらのイラスト(https://twitter.com/kuko14kuko/status/1347537994975113217?s=21)にテキストをつけさせていただきました。
    正直、限界だった。
     夜になってもパンの完成で盛り上がり続ける人の輪からゲンはこっそり抜け出し、森へ足を踏み入れた。
     まだ切り拓かれていない自然のままの森は夜になれば暗い。今日は月明かりがあるので比較的森の姿を捉えられるが、月明かりがない新月の夜などはほぼ何も見えない。ゲンは薄ぼんやりと月に照らされた未整地の道を危なげなく、しかし足取りはおぼつかない様子でふらふらと進み、目的の場所へたどり着いた。
     風で羽織を揺らすゲンが見上げた大木は楠だ。大人4人で手を繋いでもおそらく幹を抱えられないほどの大きな楠。その根上りの前でゲンは汚れることも気にせず膝をつき、暗い穴を覗き込んだ。
     先客はいない。土以外の異物も見当たらない。指先で地面に触れる。地面も吹き溜まった葉も乾いていた。
     ふう、と息を吐きながらゲンはその穴にどさりと倒れるように横たわる。折った膝を抱え体を丸めれば酷く落ち着く。
     頭上を覆う樹々の隙間から覗く夜空を一瞥してからゲンは目を閉じた。この方が集中できる。目を閉じてすぐに地面から身体へ流れ込んでくる精気にほう、と深く息を吐いた。
     風が頬を撫で、身体を覆う倦怠感と、それと反 5507

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    MAIKINGご飯の話をする付き合ってない無自覚の千ゲン(携帯作り軸)
    強く吹いた風が落ち葉を巻き上げた。ぶるりと一度身震いをしてゲンはカチカチと歯を鳴らしながらラボの入り口を跨いだ。風が直撃しないだけで体感温度はずいぶん変わるのだから、建造物というのは偉大だ。しかし外の冷たい風は袖の中で握り込んでいる手すらもすっかり冷やしていた。

    「寒い、ジーマーで寒い」
    「泣き言いう前に靴履け、靴」

     ゲンの出した低い声を、こちらを見向きもせず薬品を混ぜ合わす手を止めないままの千空がすっぱり一刀両断した。

    「つれないねえ〜」

     肩をすくめながらゲンは薬品の棚からお目当てのものを探す。
     流石にどのフラスコの中になんの薬品が入っているのかくらいはわかってきたゲンである。その薬品の役割や配合なんかはてんで興味が湧かないのでいくら解説されても頭に残らないのだけれど。
     ゲンがラボに訪れたのはカセキのお使いだ。内容は薬品をいくつか持ってきて欲しいというもの。よく作業を手伝えと声をかけてくるカセキに気に入られている自覚はある。どこを気に入ってくれたのかはゲンもいまいちわからないのだけれど。
     今日はクロムもカセキと一緒に作業をしているので、ラボには千空ひとりだった。棚を 2987

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    DONEアニメ四話の蜂のくだりの幕間
    CPなし:ゲ・金・銀・干
    「エピペンの成分はアドレナリン……アドレナリンっつったら牛の副臓か……ククク、牛は普通に欲しいが見つからねえもんは見つからねえ……ー」

     後頭部をワシワシとかき混ぜる細い背中を見ながらゲンはやっちゃったなあと短い眉尻を下げた。そんなゲンの隣では金狼、銀狼がわけもわからず蜂の巣を抱えているわけだが、その姿は蜂にさされ腫れぼったくなっている。ちなみにゲンも同じ姿である。
     つい今し方、三人は蜂の巣をとりにいき、見事に蜂に刺されたのだ。

    「千空ちゃんメンゴね……俺たちいまんとこ体調悪くなってないし、ジーマーで大丈夫よ」

     恐る恐るといった具合に声をかけてみれば、冷たい視線が返ってくる。ぎくりと身体が強張る。千空にこんな視線を向けられると心臓が凍ることをゲンは初めて知った。

    「メンタリストテメー、アナフィラキシーショック舐めんなよ」
    「「「ごめんなさい」」」

     肩をびくりと跳ねさせゲンが言えば、声が重なった。ちらりと横目で隣をみれば、金狼・銀狼も姿勢を正している。ゲンにつられたのか、我が事と把握したのか。
     ちゃんと戦利品はあるというのに、なぜ叱られてるのか、きっとふたりはま 3957

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    SPOILER本誌ネタの付き合ってない千ゲ(🏹と💎)「やだやだ! 絶対千空ちゃんとは乗りたくない!」
    「? んでだよ、体重同じなんだ。バランスとりやすいだろが」
    「俺女の子と乗るから〜!」
    「だーっ! うるせえ! 黙って乗りやがれ!」
    「ヒイイイイイ!」

     すいーっと剥き出しの崖沿いに上昇していく千空とゲンをクロムは見上げる。ゲンの悲鳴もすっかり聞き慣れてしまっていたけれど、北米ではなかなか聞くことが出来なかった。久しぶりに聞けば石神村のことを少し思い出し、彼らと共にあることがすっかりクロムの常になったのだなとクロムはひとり小さく笑った。
     千空に引きずられるようにして涙目でエレベーターに乗り込んだゲンの姿を思い出し、クロムはいまだに聴こえる叫び声に腕を組みながら首を傾げる。口から漏らしたのはあくまで独り言のつもりだった。

    「しっかし、ゲンのヤロー。なんであんなに千空と乗るの嫌がったんだ?」
    「千空と乗ると思う存分ビビれちゃうからじゃないかな」
    「羽京」

     いつのまにかクロムの隣に立っていた羽京を見やると、クロムと同じように上昇するエレベーターを眺めている。

    「お酒に酔ってる人間がいればゲンは介抱するタイプだよね。その代わり 1418

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    MOURNING千ゲ(造船軸)
    最後の会話が書きたかっただけの読書感想文の話
    ゲンは雑談から本題に移すのがあまりに自然だ。ぺらぺらとよく回るゲンの口を作業BGMにしていた千空は「そういえばさ」という音を拾い顔を上げた。

    「みんな文字覚えてきたし、そろそろやろっかなって思ってんのよね。まあまだ書けない子は代筆とか請け負うとして」

     方向性は決めているが具体的に細かいところまではまとめていない──そんな音色のそれに、千空はゲンを見やる。今夜はラボ内で千空はペルセウスのラボカーに乗せるもののリストアップ、ゲンは千空デパートの帳簿をつけていた。木炭で作ったペンを手に斜めうえを見つめ思案していたらしいゲンが顔の位置を戻した。千空の視線とぱちんとぶつかる。目にも口元にも三日月を描き、ゲンがにこりと笑った。

    「なにを」
    「読書感想文〜」

     某未来からやってきた猫型ロボットが便利道具を取り出すときのような口調で放たれた言葉に、千空は片眉を跳ね上げ口を盛大に歪めた。

    「読書感想文だあ?」
    「あ〜やっぱり! 千空ちゃん嫌いだったんじゃないかなと思ったよ、読書感想文!」

     千空の返しと共にけらけらと笑いながらゲンが言うので、やっぱりってなんだと千空はジトリとした視線を投げ 5884

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    MOURNING千ゲ(復興したかなくらいの時間軸)「わかってる? 俺は精神科医でもカウンセラーでもないし、ましてや君のRPGの文明復興クエストに現れたお助けキャラでもないんだよ」

     初めてゲンの横髪が邪魔だと思った。白い月明かりに照らされ微かに光る長い横髪が、ゲンの表情を千空の視界から隠してしまっている。声ばかりが聞こえ、ゲンの冷たく突き放した話しぶりに、千空は開こうとしていた口を閉ざした。
     ゲンをこちらに振り向かせようと手を伸ばすが、藤色の羽織の裾をひらりと揺らしながらゲンが器用に千空を避けた。掴もうとした手が空を切る。
     こうやって千空からのアクションをゲンが避けたのは初めてだった。そう、初めてだったのだ。いままでこれはゲンがすべて許容していたのだという事実を千空は思い知った。──だから当たり前のように思ってしまったのだ。千空がゲンに好きだと言えば、俺も、と返ってくるものだと。いつものへらりとした笑みが返ってくるものだと。
     ゲンの表情が見えない。ゲンが怒っているのか、傷ついているのか、千空にはわからない。ぴしゃりと千空を嗜めるように言われた言葉を脳内で反芻してみる。この言葉の意図は一体なんなのか。
     千空に背を向けて、ゲンが 1266

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    DONE造船軸千ゲ(千←ゲ)もしもの話。

     千空ちゃんは超ゴイス~な現役高校生の科学少年。
     顔立ちが整ってるからメディア映えしちゃうし、テレビが千空ちゃんを見つけるのは時間の問題。宇宙から帰還した百夜パパのインタビューで息子の話が出て、学校に突撃してきたメディアの人間に見つかっちゃうの。でも科学道具で害のない程度に痛めつけて、追い返しちゃうんだよね。結果、お蔵入りしちゃう映像になるんだけど、ところが数年後、技術分野で抜擢され宇宙飛行士として宇宙へ行くことになった千空ちゃんのテレビ特集でその映像が出てくるんだよね。
     ゲストでテレビ出演してた百夜パパ、そんな事があったって勿論しらなかったから爆笑しながらスタッフや視聴者に謝るの。良いパパだよね。
     それで千空ちゃんは宇宙で宇宙食のラーメン食べたり、百夜パパと通信したりしつつ、任務こなして地球に帰ってきてさ。日本の教育バラエティ番組とかに引っ張りだこになっちゃう。顔はいいし話はわかりやすいし肩書もバイヤ~だからね。テレビがほっとくはずがないのよ。たまに親子共演とかもしちゃって、そのうち一緒に宇宙にまたいっちゃったりして、ふたりで宇宙ステーションから地球に中継とかも 2066

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    DONE地獄に堕ちた千ゲンのはなし。
    ※超happyな話のつもりですが、なんでも許せる人向け
    ※地獄に堕ちたあとの話なので死後の話
    ※他のキャラの名前も出てきます
    #地獄堕ち婚約千ゲン作品
    どうやら本当に地獄というものは存在したらしい。
     覆い茂った木々の隙間を縫うようにして見えるのはおどろおどろしい色の空。足元は舗装されていない荒れた土。なんだか見たことのない植物がやたらと生えている。調べたい気持ちをぐっと抑え込み、千空は前を見据えた。一応道らしい道はあるし、道の先に川や橋みたいなのも見えるし、おそらくその先にどでかい御殿みたいのもある。とりあえずあそこに行くべきだなと千空は頭を少しだけかいて、ゆっくりとした足取りで歩きはじめた。刹那。

    「えっ!? 早くない!?」

     横からいやに聞き慣れた声がして、千空は俯き気味にハッと鼻で笑う。感動の再会、みたいなのは自分たちには無理だったようだが、それでも再会することは叶ったらしい。そんなことを考えながら、千空は腰に手を当て、声のした方をみやる。そこには道端でしゃがみこみ、手を泥まみれにしながら何か木の枠で成型しているゲンの姿があった。鍬やスコップなどがあり、ゲンの周りには雑草がないことから土まみれのゲンが整地したのだろうことが想像できた。
     へにゃりと眉尻を下げ、ゲンが立ち上がって肩を落とした。感動とまでは言わないからちょっと 5274

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    MOURNING千ゲン(未満)
    造船中
    みんなリリアンの歌が好きだろ? だから、なにか歌を教えてあげたいんだけど、ちょっとみんなの前で唄うの照れるんだよね。
     夕食時の雑談のような羽京の言葉に、千空は鼻を鳴らした。手元には本日ゲットしたイノシシ肉を刺した串。これがなかなかうまい。
     千空は口の中で肉を咀嚼しながら、同時に羽京の言葉も飲み込んだ。羽京はいま科学学園で教鞭をとっている。羽京の授業は大変評判で、授業を受けたものはみるみる力をつけていっている。その羽京のいうことだ。わざわざ千空の隣に座っての会話なのだから、これは相談の類に入るのだろうと千空は判断した。ーー心当たりはある。

    「メンタリストに言やいいんじゃねえか」
    「え、ゲン? あ、リリアンの唄歌ってもらうってこと?」
    「歌はなんでも良いだろ。そもそも歌唱力が装備されてなきゃリリアンの曲歌うなんて無理だ。羽京がこっぱずかしいってんなら、声帯模写抜きで歌唱はメンタリストに頼めば話はまとまる」
    「あー、なるほど。たしかに」

     千空と同じ串を持った羽京がフランソワ特製ソースにディップしてパクリと頬張る。おいしそうに食べる人間だ。もぐもぐと口を動かしながら、ゲンのことを考え 3350

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    DONEエアスケブSS⑤
    リク:「また明日」がテーマの千ゲン
    司帝国の面々と合流し、一緒に作業するようになってから、千空はこんなものは作れないだろうか、という相談を受けることが増えた。別に造船作業に支障が出るわけでもないものであれば、追加労働を対価に引き受けた。

     色付いた葉が落ち始めた秋の出口間際。その日もやらなければいけない作業を終えてから、千空はゲンを手伝わせながらラボで図面を引いていた。
     頼まれたものを作るための図面だった。気付けば日は跨いでいて、どこからか野犬の遠吠えが聞こえていて。そこへ混じったゲンの欠伸の音に千空は意識を引き戻された。集中すると時間は光の速さで過ぎていく。さすがに作業させすぎたかと、図面を引く手を止め、ゲンの方を見やる。すると、そこには半分寝ているゲンーーが、いると千空は思っていた。だが、実際にそこにいたのは。

    「ねえ、千空ちゃん。呪いかけてあげるよ」

     眠気なんて全く感じさせない、それどころか微塵も感情を読み取らせないような、涼やかな笑みを顔に貼り付けたゲンの姿があった。冷たい夜風が開放されている出入り口から吹き込んで、ゲンの横髪をかすかに揺らした。
     物騒な言葉に千空が整った眉を跳ねあげれば、ゲンがゆっく 3331

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    DONEエアスケブSS④
    リク:ヤキモチをやく千かゲの千ゲ
    ※ゲ不在ですが千ゲです
    歯に物が詰まったような、そんな表情。
     杠は視線の先でラボに入り見えなくなった千空の横顔を、そう捉えた。
     なにか作業で思い通りにいかないことがあっとのかな、と杠はひとり首を傾げた。杠の手には解れてしまったので修繕を、と科学王国民のひとりから預かった服がある。さきほどから作業の小休憩として日当たりの良いところで日向ぼっこがてら繕っていたのだが、いろんな人に息抜きでも裁縫をするのかと驚かれた杠だ。これとそれとは別なのです。そんなことを言っても、なかなか伝わらない。こういう機微を分かってくれるのは、クラフトチームの面々ばかりだ。
     造船作業は杠の知る限りでは順調に進んでいる。帆の最終調整のため村の方で千空や龍水と話し合ったりもしているので、特に問題はないはずなのだけれど。
     あの表情をしてしまうような出来事を、千空はひとりで消化してしまうのだろうか。そう考えて、ぐるりとあたりを見渡す。こういうとき、大樹がいれば大抵のことはなんとかなる。最近ではクロムやコハク、カセキなどでも。あと、ゲン。そのことに気付いた杠は、大樹と杠が千空の傍にいない間に築かれていた関係に心底ほっとしたものだった。

    3126

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    DONEエアスケブ③
    千ゲン
    リク:酔っ払って素直な千と、普段とのギャップで赤面してしまうゲ
    そういえば成人式もできなかったなあ、とあっけらかんと笑ったのは大樹だった。怒涛の船旅を終え、石神村に帰還し、離れ離れになっていた面々も合流し、一息ついた頃の出来事だ。
     その大樹の一言が聞き捨てならないと立ち上がったのが石化前に成人を迎えていた面々である。石神村では成人の儀は二十歳ではないらしいが、説明すればそれは祝わなければ! と、こちらも大人たちが協力に乗り出した。準備もなしに大人にならなければならなかった子たちに、せめてものお祝いと区切りを、と思うのは当たり前だったのかもしれない。
     そうして祝われるメンバーの一員でもある杠に頼み込んで、快く衣装協力をしてもらうことになり、成人式が執り行われたのが本日。空は透き通るような青。息も凍るような冬のある日のことだ。
     成人式参加メンバーは石化から復活してから二十歳を迎えた人間。その中にはもちろん千空もいて、大樹、杠が纏う着物とよく似たデザインの袴を身につけていた。小っ恥ずかしい、などと悪態を付きつつ千空が幼馴染み達の晴れ姿を見て喜んでいるのは誰もがわかり切っていた。
     成人式、といっても大人の代表としてコクヨウが祝辞を述べた後はただの酒 3605

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    DONEエアスケブ②
    千ゲン
    リク:嫉妬する千と無体を働かれるゲ
    「追加」

     どさりと置かれた各種材料をゲンはげんなりして見つめる。正座して作業に勤しむゲンの横に無情に置かれる箱。無機質なフォルムはすでに見慣れてしまった。素材が詰め込まれた50センチ四方程の木で出来た箱は、本日これで4つめ。朝一番で天文台で作業してくれと千空に言いつかってからずっとこの調子だ。最初のうちはドイヒ〜なんて反応していたが、もはやドン引きレベルである。
     そのまま天文台を出ていこうとする主犯の千空にさすがにイラッとしたゲンだ。怒りをぶつける、というのは非常に簡単なことだ。だからこそ理性を働かせる。オブラートに包む、オブラートに包む、と心の中で5回ほど繰り返してから、心を落ち着かせ、ゲンはわざとらしく「もー!」と声を上げた。

    「これじゃブラック企業もびっくりだよ! わんこそばならぬわんこ作業!? ドイヒーか過ぎるんじゃない千空ちゃん!?」

     軽い、いつもの調子での文句。すでにゲンに背中を向けていた千空の足がピタリと止まった。
     開いている天井から外が見えるのが救いだった。完全な閉鎖空間だったら、こんなの息が詰まる。

    「こ〜んなに作業あったら今日一日外出れないじゃん…… 3661

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    DONE学パロ千ゲン
    ※お題箱リクエスト、エアスケブ
    ※💯がいます
    「……なんでここにゲンがいんだ」
     肩にかけてたトートバッグの紐がずるりと落ちる。冷たい風に晒されて鼻頭を赤くしながら帰宅した千空の自宅には、なぜか、高校の先輩と父親がコタツで蜜柑の皮を剥きながら談笑していた。しかも先輩はブレザー姿。明らかに学校帰りだ。
    「おー! 千空、おかえり!」
    「千空ちゃんお帰〜」
     リビングの入り口に立つ千空に軽く言葉を向けて、2人は続けていた会話を再開させる。早く手洗いうがいしてきなよ千空ちゃん、だなんて言われる始末で。
    「いや。いやいやいやいや、待て。ふたりして軌道を話に戻すんじゃねえ。どういうことだ」
     額を手で抑え眉間に皺を寄せ問えば、ゲンと百夜がきょとんとした顔で千空を見上げてくる。
    「なんでテメーが俺んちで百夜と和やかに蜜柑食ってやってやがる!?」
    「え、ちょっと意気投合しちゃって……?」
    「その前の段階の話だっての」
    「貰った名刺みたら石神で、もしかしてと思って聞いてみたら千空ちゃんパパだって発覚して……うーん、思春期ボーイには嫌だったかな?」
    「ちっげえ。どういう成り行きでここにいんだって聞いてんだ」
     珍しく会話がうまく運ばない。千空が入り浸 1836

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    DONE # 絶対に被ってはいけない千ゲンkiss
    企画参加作です。
    ※千→ゲ(額)
    ※付き合ってない
    ※造船期間中/百物語ねつ造有り
    素敵な企画ありがとうございました!
    「本当に本当に申し訳ないんだけど、黙ってる方が迷惑かけると判断したので自己申告します」

     ラボに入ってくるなり、ぺこりと頭を下げたゲンにさすがに作業の手を止め千空は相手をみた。丸い白黒頭のつむじが視界の中心に入る。そういえば初めてつむじを見たかもな、なんてどうでもいいことを思う。
     千空は常々思っているのだが、あさぎりゲンという男は姿勢がいい。こうやって頭を下げている姿など初めて見たが、やはりこれもきれいなお辞儀だった。口で相手を丸め込み自分の思うがままに誘導してしまう実力者だというのに、そんな男が頭を下げている。一体この状況はなんだ――千空の眉間に自然と皺が寄る。
     怪訝な顔をしたままゲンを見やっていると、顔を上げたゲンと目が合う。あまりにも情けなさを顔の全面に出していて、これもメンタリストの技術のひとつなんだったら拍手ものだ、だなんて考えているとゲンが短い眉を下げながら口を開いた。

    「情けないことにね、いまから発熱するっぽい」

     そんな言葉とともに、ゲンの肩ががっくりと落とされた。珍しく崩された姿勢に、またレアな姿だなとぼんやりと考えて、千空の方もレアなことに思考が一瞬とまり 5488

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    DONE復興後ifの千ゲン③完結

    ① https://poipiku.com/1356905/3255402.html
    ② https://poipiku.com/1356905/3260479.html
    「飛行機の時間とか大丈夫なの」
    「そっちこそスケジュールは」
    「俺は2時間後にすぐそこのラジオ局で収録開始」
    「―、収録の合間に来たってことか」
    「そういうこと。予定はなかったんだけどね、ふらっと入ってみちゃったわけよ」

     千空がプロデュースしたプラネタリウムが気になって、とは言わず、ゲンは肩をすくめながらそう答えた。横に並んで科学館を出る。一年間まったく会うこともなく、連絡をとることもなかったというのに、これが当たり前だとでもいうのか、なんの違和感もなく千空とゲンは同時に歩き出したし、打ち合わせをすることもなく外へ足を向けた。会話もスムーズで不思議な感覚にゲンは陥る。
     ふたりの身長は同じくらいで、目線の高さも大体一緒だ。久しぶりの千空の横顔にゲンは思う。色々自覚してから直接みるはじめての千空の姿、攻撃力があまりにも高い。ひとり小さく苦笑を浮かべて、腕時計をちらりと見た。五分と言った千空だ。おそらくスケジュールはカツカツだろう。なにせ明日は月へ行く男。ロケットの発射が日本というのが救いだろうか。
     石神村から船を出して数時間のところにロケットの発着場はある。再びJAXAと名付け 7610

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    MAIKING復興後ifの千ゲン②

    ①(https://poipiku.com/1356905/3255402.html )
    次の収録までの時間があったから。そういう理由をつけて、ゲンは科学館に足を踏み入れた。いまやすっかり芸能人として活動中のゲンに受付の人間は気付いたらしいが、なにも言わず入館料を回収し通してくれた。ありがたいことだ。ちょうどプラネタリウムの上映開始前で、これ幸いとドームの中にゲンは入った。
     薄暗い空間に映画館のように並んだ椅子、そしてそれとは別に地べたに寝そべることが出来るような人工芝。これはなかなか面白いなとゲンはくすりと笑った。中央には大きな機材。これで投影するのだろうか、と思うも明らかに高そうなので触れないようにする。
     科学館には平日の真昼間にも関わらずそれなりの客がいたが、プラネタリウムの上映まで少し時間があるからか、ドームの中にいるのはまだゲンのみだった。
     人工芝に転がるか、椅子に座るか。
    少しだけ悩んで、ゲンは靴と靴下を脱いだ。顔隠しの伊達メガネをかけたまま寝そべってみる。まだなにも映し出されていないドーム状の白い天井を眺めた。ここにプラネタリウムが投影されるらしい。
     科学館建設の権利は奪い取ったが、建設が始まってからはゲンはこの科学館にはまったく携わっていない。このド 4817

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    MAIKING復興後if:千ゲン①『石神千空氏による全面プロデュース!』
    そんな文字をゲンが街中で見かけたのは本当に偶然だった。目に入った科学館のポスターを見つめ、ゲンはひとり苦笑する。
    復興が進み、車道と歩道がわけられた区画が増えてきた。そのポスターは歩道から先月完成したばかりの科学館へ続く小道の入り口にあった。きっと大多数の人間なら見向きもせず通り過ぎるのだろう。銀杏はすっかり落ち、独特の匂いに悩まされないようになったかと思えば黄色い扇型の葉が歩道を覆う。秋の気配が終わりに近づいた、そんな日。実際にゲンの考えている通り、背後を多くの人が足早に通り過ぎていく。
    石神千空の名前は一般人の間でも有名になったが、石神千空の熱烈なファンというのは顔ファンでなければ、同じ穴の狢な人間たちばかりだ。彼の功績は、わかる人間じゃなければわからない。専門家と、そして彼を間近で見ていた人間と。
     そう、この文字が勝手に目に入ったわけではないのだ。常にゲンが千空のことを意識しているから、その名前の存在に気付いただけ。
    「いつのまにプラネタリウムのプロデュースなんてしてたのよ、千空ちゃん」
     やらなければならないことも、やりたいことも沢山あ 3160

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    TRAINING千ゲン(🇺🇸に向かう船:🍉とゲの会話。千は出てこないけど千ゲ)「ゲンには宝物ってあるんだよ?」
     丸いレンズ越しに見上げてきたスイカにゲンは口元にゆるりと弧を描いた。そうだねえ、と続けながらふたりはパンをかじり、あたたかな日差しを浴びる。波の音が穏やかだ。頬を切る風も冷たすぎず、日向ぼっこにはちょうど良い天候だった。
     なにかお手伝いすることは、とスイカがゲンに尋ねてきたのは昼前だった。アメリカに向けて出航してからさらに気合が入っているスイカを微笑ましく思いながら、ゲンは昼食のパンをふたり分スイカに取りに行ってもらった。そして届けにきてくれたスイカと共に甲板に出た。そのまま日当たりの良いところへ腰をかけて、今に至る。
     甲板では作業当番の面々が忙しなく動いていて、そんな中でのんびりしてていいのかなとスイカが言うので、たまには休憩するのも大事だよいう会話からはじまり、石神村のみんなはいまという想像の話をして、未来の話になった。そしてこの前スイカが司が未来の話をしたとき、司の顔がとても優しかったというので、そこでゲンが答えたのが、
    「未来ちゃんは司ちゃんの宝物だからね」
     という言葉だった。話のきっかけはそこ。宝物の話題に移動した。
    「龍水ちゃんと羽 1977

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    TRAINING #絶対に被ってはいけないバソプ千ゲン小説
    罰ゲーム、選曲は三ツ星力ルテットです
    時間軸は石油探索中
    石神村と旧司帝国の情報共有のための定時連絡は役割としては決まっていない。
     一日の作業が終わり、残すは就寝のみという時間。数分間のみの電波を介してのやりとりをする。それだけなので、石神村は千空が自然と固定になったとしても、農耕チームの方ではわざわざ決めなかったのだ。
     だから最初は気にしていなかった。しかしこうも連絡係としてある人物が出てこないとは思ってもみなかったので、千空は少しずつ少しずつ不思議な感覚に蝕まれていった。
     大樹、杠、仁姫、カセキ……と毎晩電話を天文台に持ち込んで石油探索チームで通話を担当する千空の相手は変わる。みんな楽しそうに農耕チームの情報や不足している物資のことなどを千空に伝える。情報の取りまとめがあまりに秀逸で、間違いなくあの自称ペラペラ男が噛んでいることがわかるのに本体を掴めない。ついに本日、通話相手がスイカになったことにより千空はこれがゲンの意図的なものだと確信を得たのだった。理由はわからないが、ゲンは千空との接触を絶っている。
    「なんなんだアイツ……」
     眉間にシワを寄せぼそりと呟いた音が通話相手のスイカに届いたらしい。言葉自体はわからなかったようで聞き 2557

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    DONE #絶対に被ってはいけないバソプ千ゲン小説
    イメージ「真っ赤な空を見ただろうか」
    真っ赤な空を見ただろうか





    「夕日が赤くてきれいだな、で俺は終わってきたわけだけど、千空ちゃんは夕日が赤いのはなんでだろうってなってきてるんだよね~……つくづく別の生き方をしてきたんだなあって思っちゃうね」
     赤色に照らされた横顔はいっそ清々しささえ滲んでいて、そのとき千空はなにを返せばいいかわからず、潮風に吹かれるその横顔をただ眺めていた。ゲンだったらなにか返せたのだろうな、なんて思いながら。



     外にはアスファルトの道が通り、その上を車が走る。車道の端には街灯。建築物には企業が入り、飲食店ができ、住宅街も出来た。あちこちで平らにならした土地の争奪戦が起きては、高層ビル建設の噂が飛び交う。物流の面で陸路だけでなく、空路も海路も早々に整えられた。政界関係者や専門家が多く利用しているが、民間人が使いだすのも時間の問題だろう。
     世界各地で復活者が日に日に増え、日々新しくも懐かしい物が増えている。まだまだ三七〇〇年前の風景には届かないが、それでも石化前の科学知識も技術も復活した今、あとは現実が追い付いてくるだけだ。
     きっと表現するならば『復興中』だ。世界を復興させるための土台 4794

    mame

    MOURNING千ゲン(米行きの船の中:ハロウィンネタな千ゲ)お疲〜、と間延びした声に相槌を入れる前に「トリックオアトリート」と言葉を遮られた。
     顔を上げ振り返ると、にっこりと唇で弧を描いたゲンと目があった。反射的に千空が顔を顰めれば、その笑みが深くなる。暗くはないが浮かれてもいない声だった。これは果たして本日そこら中で繰り広げられていた復活組馴染みのイベントでお馴染みの、そして復活した合言葉と同じ意味合いなのだろうかと千空は考える。問われたのか、問われていないのかすらいまいちわからなかった。
     ペルセウスのラボは千空の私室の様な状態になっている。そこにゲンが水筒代わりにした竹筒を持って訪れるのは日常の風景だ。そろそろ一息ついたら、と声をかけてくるのは陸にいる時も船に乗っている時も大体この男である。毎回絶妙なタイミングでくるものだから「いいタイミングでゲンが茶を持って来たから休憩」をとっているのか、「ゲンが茶を来たから休憩の時間」としているのか千空にはいまいちわからなくなってしまった。多分すでに後者になりつつあるのだろうが。閑話休題。
     ゲンの意図を測りかね、眉間にはほのかに皺が寄る。そんな千空が座るデスクに、ゲンはことりと小さく音を立てて竹筒 3646