姉弟 半月の晩だった。筒見屋の邸の庭は虫の声だけが響き、仄かな月明かりと、面した一室からほろほろと零れる橙の灯明だけが僅かに暗がりを染めている。その方向、開け放たれた障子はこの夜でもとろりとした夏の暑気にせめてもの風を通すため。この季節は時刻を問わず庭に面する部屋はどれもそれが常だった。
月に誘われるようにふらりと庭に出た阿国が見遣った橙の先、視線を遮る為に置かれた衝立の向こうに人の気配を感じる。まだ休んでいないのか、と案じてそちらに寄ると、砂利を踏む足音に気付いたのだろう、衝立から控えめに顔が覗いた。
「…やはり。あなたでしたか」
「まだお休みになっていなかったのですか」
「寝付けなくて…つい。阿国……いえ、今は光慶、でもいいのかしら?」
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