狐と犬と神と人高島博は哥欲村高島家の次男として生まれた。
まだ村が山深い未開の地であった頃、そこへ迷い込んだ修験者が高島と名乗り住み着いた事が哥欲村の始まりであるという。
その地は古来より山野家の住処であった。
「……話がおかしい?」
怪訝そうに眉を寄せた私に、ベッドに腰掛けた高島は身体を揺らし、くすくすと笑った。
1997年8月20日
山野隆士は佐藤総合病院の医師である。
彼は義母の失踪をきっかけに様子がおかしくなった娘の治療の手がかりを探るため、同僚の狭間医師の運転で新街改革病棟へと向かっていた。
新街改革病棟は既に廃院となって久しく、その場所を知る者は少ない。
「すみません、遠くまで。」
「いいんだよ。それより、当時の資料がまだ残っていれば良いんだけど。」
19592