人を、殺した。
存外、簡単だった。
やってはいけない、と思い込んでいただけだった。
──そう、例えばスーツを着たまま風呂に入ってみるとか。
それと同じだ。
◇
「アンタ、日車だよな」
さして広くもない劇場に幼さの残る声が大げさなまでに響く。
目をやれば、ステージ下の琥珀色の目がこちらを見据えていた。
「いかにも」
短く答えて微笑む。
視線だけ動かして客席を見た。観客はいない。日車の他にいるのはこの場で最も新参である少年だけだ。
少年は何かを言いかけて口をつぐんだ。そして眉間にしわを寄せながら口元に手を当てた。
そのまま「怪訝な顔」の見本になりそうな顔だ。 それが妙に可笑しくて、壇上の男──日車寛見は薄く笑った。
7228