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    高間晴

    @hal483

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    高間晴

    DOODLEチェズモク800字。ツーカーの二人。■明日を待ちわびて


     モクマは現在、敵アジトに潜伏中だった。腕の立つ用心棒という立ち位置を得てはや数日が経つ。便宜上の『仲間』が「一緒に飲まないか」と誘ってきたが、笑って断った。与えられた個室に戻ると、ベッドに座ってこの数日でかき集めたアジトの内部構造をまとめ、タブレットでチェズレイに送信する。と、同時にタブレットの中に保存した情報を抹消する。
     ――やれやれ、これで明日はチェズレイのもとへ帰れるな。
     そこまで考えてベッドに寝転がると、自分が帰る場所はチェズレイのところになってしまったんだな、なんて今更なことを思う。
     そこでいきなりピコン、と軽い電子音が響いた。寝返りを打って見れば、メッセージアプリにチェズレイからのメッセージが入っている。
    〈無事ですか〉
     ただ一言だが、モクマの脳裏には心配でたまらないといった様子の彼が思い描けた。
    〈大丈夫だよ〉
     そこまで打って送信し、返事を待つ。数分の後にまた通知音が鳴った。
    〈行き先は確認しました。明日のデートが楽しみですね。何時に行けばいいでしょうか?〉
     『行き先』は内部構造図、『デート』は潜入ミッションの隠語だ。事前の打ち合わせ 846

    高間晴

    DOODLEチェズモク800字。年下の彼氏のわがままに付き合ったら反撃された。■月と太陽


    「あなたと、駆け落ちしたい」
     ――なんて突然夜中に年下の恋人が言うので、モクマは黙って笑うと車のキーを手にする。そうして携帯も持たずに二人でセーフハウスを出た。
     助手席にチェズレイを乗せ、運転席へ乗り込むとハンドルを握る。軽快なエンジン音で車は発進し、そのまま郊外の方へ向かっていく。
     なんであんなこと、言い出したんだか。モクマには思い当たる節があった。最近、チェズレイの率いる組織はだいぶ規模を広げてきた。その分、それをまとめる彼の負担も大きくなってきたのだ。
     ちらりと助手席を窺う。彼はぼうっとした様子で、車窓から街灯もまばらな外の風景を眺めていた。
     ま、たまには息抜きも必要だな。
     そんなことを考えながらモクマは無言で運転する。この時間帯ともなれば道には他の車などなく、二人の乗る車はただアスファルトを滑るように走っていく。
    「――着いたよ」
     路側帯に車を停めて声をかけると、チェズレイはやっとモクマの方を見た。エンジンを切ってライトも消してしまうと、そのまま二人、夜のしじまに呑み込まれてしまいそうな気さえする。
     チェズレイが窓から外を見る。黒く広い大海原。時 818

    高間晴

    DOODLEチェズモク800字。敵アジトに乗り込む当夜の話。■愛は勝つ


     とある国に拠点を移したチェズレイとモクマ。敵アジトを見つけ、いよいよ今夜乗り込むこととなった。「ちょっと様子見てくるわ」と言い置いて、忍者装束のモクマは路地裏で漆喰の白い壁の上に軽く飛び乗ると、そのまま音もなく闇に消えていった。
     そして三分ほどが経った頃、その場でタブレットを操作していたチェズレイが顔を上げる。影が目の前に舞い降りた。
    「どうでした?」
    「警備は手薄。入り口のところにライフルを持った見張りが二人いるだけ」
    「そうですか」
     ふむ、とチェズレイは思案する顔になる。
    「内部も調べ通りなら楽々敵の首魁まで行けるはずだよ」
     振り返って笑う顔がひきつる。その太腿に、白刃がいきなり突き立てられたのだから。
    「なッ……」
    「それじゃあ、今日のところはあなたを仕留めて後日出直しましょう」
     チェズレイは冷ややかな声で告げると、突き立てた仕込み杖で傷を抉った。
    「ぐっ……なぜ分かった……!?」
    「仮面の詐欺師である私を欺くなんて百年早いんですよ」
     それ以上の言葉は聞きたくないとばかりに、チェズレイは偽者の顎を下から蹴り上げて気絶させた。はあ、と息を吐く。
    「モクマ 820

    高間晴

    DOODLEチェズモク800字。モさんからチェズへのプレゼント。こんなんでもチェズモクと言い張る。■プレゼント


     夜。リビングのソファで二人飲んでいると、隣でモクマが思い出したようにポケットを探った。なんだろう、と思っているとチェズレイになにかの小瓶が渡される。
    「これ、プレゼント」
     それはマニキュアだった。淡く透き通ったラベンダーカラー。傾ければ中でゆらりゆらり水面が揺れる。瓶には見知った高級化粧品ブランドの名が金色で書かれている。いわゆるデパコスというやつだ。彼がどんな気持ちでこれを買いに行ったのだろう、と思うだけで小さな笑いがもれる。
    「あ、気に入らんかったら捨ててくれちゃっていいから」
    「そんなことしませんよ。
     ――ねえ、これ私に似合うと思って選んできてくれたんでしょう? 私の顔を思い浮かべながら」
     モクマはぐい呑みから酒を飲みながら、「そうだよ」と答えた。
    「化粧品売り場のお姉さんに、『彼女さんへのプレゼントですか?』って訊かれちゃって、方便で『はい』って答えちゃったのがなんか自分でも納得いかんけど」
    「まあそこで彼氏へのプレゼントですなんて言ったら色々面倒ですしね」
     まだこの世界では、異性同士での交際が当たり前で、化粧をするのも女性だけだと思われていることが 818

    高間晴

    DOODLEチェズモク800字(いつもより字数オーバー気味)。珍しく二日酔いのモクさん。■二日酔いの朝


     朝、モクマはベッドから身を起こしてずきずき痛む頭を抱える。二日酔いなんて酒を飲み始めた年の頃以来経験していない。だが、昨夜はチェズレイが隣でお酌なんてしてくれたから嬉しくなって、ちょっとばかり飲みすぎた気がする。それ以降の記憶がない。
     ふいに部屋のドアをノックする音が聞こえた。チェズレイの声が「朝ごはんが出来ましたよ」と告げる。モクマは返事をして部屋を出ると洗面所へ向かう。冷たい水で顔を洗うと少しさっぱりした気がして、そのままダイニングへ。
     おはようと挨拶をすればチェズレイが鮮やかに微笑む。味噌汁のいい匂いがする――と思ったのは一瞬で、吐気をかすかに覚えた。
     ――あ、これ完全に二日酔いだわ。
     典型的な症状。食べ物の匂いがすると胃のあたりが気持ち悪くなる。頭痛もぶり返し始めた。だがチェズレイがご飯をよそってくれているのを見ると、どうにも言えない。
     朝ごはんはやっぱり白米がいいな、なんて冗談半分で言ったら、その日のうちに炊飯器を取り寄せて味噌汁の作り方までマスターしてしまうのがこのチェズレイという男だ。そこまで想ってもらえるのは嬉しいが、時々、ほんの少しだけ 892

    高間晴

    DOODLEチェズモク800字。モクさん不在でチェズとルクの会話。■結婚妄想


    「なあ、チェズレイってモクマさんと付き合ってるんだろ?」
     キッチンで夕食の支度の手伝いをしながらルークが訊いた。五人分の皿を食器棚から取り出している。
    「ええ。そうですが何か?」
     まな板の上の食材を包丁でトントンと軽快に切りながら、チェズレイはこともなげに答えた。たぶんアーロンからルークの耳に入ったのだろうと予測する。
     ルークは持ってきた皿を置くと、目を輝かせてこう言った。
    「モクマさんのいいところっていっぱいあるけどさ、決め手はどこだったんだ?」
     チェズレイはほんの少しの思案の後に、至福の笑みを浮かべた。
    「全部、ですかね」
    「そっか~!」
     ルークもつられたように、嬉しそうな満面の笑顔になる。チェズレイはそれが少し不思議だった。
    「どうしてボスは、今の私の答えで喜ぶんですか?」
    「だって、モクマさんって僕の父さんみたいな人なんだもん。そんな自分の家族みたいな人のことを、手放しで好きだって言ってくれる人がいたらそりゃ嬉しいよ」
     ルークのきらきらするエメラルドの瞳が細められる。それを見てチェズレイは、モクマに対するそれとはまた別の「好ましい」と思う気持ちを抱い 842

    高間晴

    DOODLEチェズモク800字。ポッキーゲームに勝敗なんてあったっけとググりました。付き合っているのか付き合ってないのか微妙なところ。■ポッキーゲーム


     昼下がり、ソファに座ってモクマがポッキーを食べている。そこへチェズレイが現れた。
    「おや、モクマさん。お菓子ですか」
    「ああ、小腹が空いたんでついコンビニで買っちゃった」
     ぱきぱきと軽快な音を鳴らしてポッキーを食べるモクマ。その隣に座って、いたずらを思いついた顔でチェズレイは声をかける。
    「モクマさん。ポッキーゲームしませんか」
    「ええ~? おじさんが勝ったらお前さんが晩飯作ってくれるってなら乗るよ」
    「それで結構です。あ、私は特に勝利報酬などいりませんので」
     チェズレイはにっこり笑う。「欲がないねぇ」とモクマはポッキーの端をくわえると彼の方へ顔を向けた。ずい、とチェズレイの整った顔が近づいて反対側を唇で食む。と、モクマは気づく。
     ――うわ、これ予想以上にやばい。
     チェズレイのいつも付けている香水が一際香って、モクマの心臓がばくばくしはじめる。その肩から流れる髪の音まで聞こえそうな距離だ。銀のまつ毛と紫水晶の瞳がきれいだな、と思う。ぱき、とチェズレイがポッキーを一口かじった。その音ではっとする。うかうかしてたらこの国宝級の顔面がどんどん近づいてくる。ルー 852

    高間晴

    DOODLEチェズモク800字。お揃いのマグカップ。■おそろい


     モクマはチェズレイとともにヴィンウェイのセーフハウスに住むことになった。あてがわれた自室で荷物を広げていると、チェズレイが顔を出す。
    「モクマさん。やっぱり食器類が足りないので、買い出しについてきてくれませんか」
    「おっ、いいよー」
     タブレットに充電ケーブルを挿し込んで、モクマはいそいそと後をついていく。
     食器店――こちらの方ではテーブルウェア専門店とでも言うのか。最寄りの店に入る。そこには洒落た食器が棚に所狭しと並んでいた。さすがチェズレイも利用するだけあって、どれも美しい芸術品のように見える。
    「ええと、ボウルとプレートと……」
     店内を歩きながら、モクマの押すカートに食器を次々と入れていく。
    「あとはカップですが、モクマさんがお好きなものを選んでくださって結構ですよ」
    「ほんと? どれにしようかなぁ……」
     白磁に金の葉の模様がついたものや、ブルーが美しいソーサーつきのカップなどがあって目移りしてしまう。そこでモクマは思いついたように訊いた。
    「なあ、お前さんはどれ使ってるの?」
    「――そうですね、普段はこのブランドのマグカップを使っています。軽量で手首に負 825

    高間晴

    MAIKINGチェズモクの話。あとで少し手直ししたらpixivへ放る予定。■ポトフが冷めるまで


     極北の国、ヴィンウェイ。この国の冬は長い。だがチェズレイとモクマのセーフハウス内には暖房がしっかり効いており、寒さを感じることはない。
     キッチンでチェズレイはことことと煮える鍋を見つめていた。視線を上げればソファに座ってタブレットで通話しているモクマの姿が目に入る。おそらく次の仕事で向かう国で、ニンジャジャンのショーに出てくれないか打診しているのだろう。
     コンソメのいい香りが鍋から漂っている。チェズレイは煮えたかどうか、乱切りにした人参を小皿に取って吹き冷ますと口に入れた。それは味付けも火の通り具合も、我ながら完璧な出来栄え。
    「モクマさん、できましたよ」
     声をかければ、モクマは顔を上げて振り返り返事した。
    「あ、できた?
     ――ってわけで、アーロン。チェズレイが昼飯作ってくれたから、詳しい話はまた今度な」
     そう言ってモクマはさっさと通話を打ち切ってしまった。チェズレイがコンロの火を止め、二つの深い皿に出来上がった料理をよそうと、トレイに載せてダイニングへ移動する。モクマもソファから立ち上がってその後に付いていき、椅子を引くとテーブルにつく。その前に 2010

    高間晴

    DOODLEぼんど800字。チェズモク。ED後、入院中の食事風景。■いたれりつくせり


     BONDの四人は揃って入院生活を余儀なくされた。四人とも大怪我を負っていたが、中でも重傷だったのはモクマだ。今でも彼は鎮痛剤を打たれて、ほとんどずっと眠っている状態である。
     ルークとアーロンは持ち前の若さと体力で早々に病床から離れ、日中は中庭で二人過ごしていることが多いようだ。
     そろそろ昼食の時間だ。チェズレイはベッドから身を起こす。カーテンがふわりと揺れて、暖かな光が射し込む。
     鎮痛剤が切れ始めたのか、隣のベッドでモクマが身じろぎする。
    「目が覚めましたか、モクマさん」
    「ん……腹減ったなって思って」
     それを聞いたチェズレイは嬉しくてくすくす笑う。空腹を覚えるのは生きている証だからだ。
     ルークとアーロンも戻ってきて、看護師が四人のベッドに食事を運ぶ。
    「チッ。こんな精進料理みたいなんじゃ治るもんも治らねえっつうの。肉食わせろってんだ」
    「さすがに我慢してくれよ、アーロン。スイさんが差し入れしてくれた果物、僕の分も食べていいから」
     梅干しの入った薄味の粥をすすりながら、二人はやいやい言っている。その様子をよそにチェズレイは玉子焼きを箸で食べていた。 817

    高間晴

    DOODLEぼんど800字。チェズモク。ED後で入院中の四人。■まだ、始まったばかり


     恋だの愛だのでこんなに苦しい思いをすることになるなんて、思ってもみなかった。チェズレイは病院のベッドの上で寝返りをうつ。
     現在、ミカグラ島の危機を救ったチームBONDは仲良く入院中。四人とも医者からはよくぞ生きていたと言われるほどの重傷を負っていた。ナデシコの根回しもあり、同室で日がなベッドの上でぼうっとする日々を過ごしている。
     ――かと思いきや。
    「アーロン! 筋トレは早すぎるって医者にも止められただろう!?」
    「うっせえ! 治ったか治ってないかを決めるのは医者じゃなくて当人のオレだ!」
     病院の中庭から騒がしい声が聞こえてくる。
    「ははは。全く、お若い二人は元気だねぇ」
     売店へ暇つぶしの雑誌を買いに行っていたモクマが戻ってきて、チェズレイのベッドの傍の丸椅子へ腰を下ろす。
    「モクマさん。あなたが一番重傷なんですからベッドに戻ってください」
    「ん? でもね」
     そう言ってモクマがシーツの上に投げ出されたチェズレイの手を取る。それはあの指切りをした時と同じく、温かい手だった。
    「ベッドに戻ったんじゃ、こんなことできないだろ?」
     その言葉だけで容易く 819

    高間晴

    DOODLEぼんど800字。チェズモク。もうすぐ春ですね。■さくら、ふわり


     チェズレイとモクマは、作戦決行前にはいつも二人で散歩をする。裏通り、繁華街、公園。それは二人の上に空さえあればどこでも良かった。
     極東の小国でそこそこ上質なホテルに腰を落ち着け、敵アジトについての捜査も済んだ。だから今夜、敵地へと潜入することになっている。
     川べりの遊歩道。あたりは初春といった雰囲気で、明るい陽の光に梅が花をほころばせている。
    「梅は咲いたか桜はまだかいな、っと」
     隣でモクマがそう口に出すと、チェズレイは考え込んでいた様子から顔を上げた。
    「なんです、それ」
    「マイカの里に古くから伝わる唄さ。
     ――お前さん、ちょっと緊張してるね?」
     首を傾げてチェズレイの顔を覗き込めば、端正な顔が少し困ったように微笑んだ。
    「していないといえば嘘になります。今夜は私の夢への第一歩を踏み出すのですから」
    「まあ、考えるのはお前さんに任せておくよ。俺ブルーカラー、お前さんはホワイトカラー、ってね。
     でも、たまには俺も頼ってよ? バディなんだからさ」
     そう言ってモクマが笑うと、チェズレイは風にそよぐ長い髪を首筋に押さえつけながら小さなため息を付いた。
    835

    高間晴

    DOODLEぼんど800字。チェズモク。うっすらネタバレしているのでクリア後推奨。香りについて。■香りの話


     朝食後。ヴィンウェイのセーフハウスのキッチンで、チェズレイが食器を洗っている。そこへモクマが使い終わった湯呑みを手に近づいた。
    「それも私が洗いますので置いておいてください」
    「あ、いいの? 悪いねえ」
     そう言ってチェズレイが洗い物をしているシンクに湯呑みを置く。すると近づいた拍子にふわりとほのかな香水の匂いがした。石鹸のような、清潔感のある香り。
    「お前さん、いつもいい匂いがするねぇ」
    「それはどうも」
     そうしてモクマはチェズレイの隣に立ったまま、あの夜を思い出す。ACE本社ビルから落下していく際に、この男に抱き込まれた時。これとは違う匂いがしていたことを。
    「そういえばお前さん、潜入の時はいつも香水をつけてなかったよね? ACE本社に乗り込んだ時は何かつけてた?」
     完璧主義者のチェズレイは、香りが邪魔になってはいけないからと潜入ミッションの時はいつも香水をつけていないはずだった。モクマはそのチェズレイの傍にいたこともあるが、忍者の嗅覚でもわからないほど何の匂いもしなかったことを覚えている。
    「いえ、あの時も何もつけていませんでしたけど……どうかしました?」
    825

    高間晴

    DOODLEぼんど800字。チェズモク。バディエピ「モーニングコーヒー」のその後の話。■その後のモーニングコーヒー


     すべてが終わった後、BOND四人はミカグラ島を離れることになった。
     朝、オフィス・ナデシコのリビングにピアノの音が響いている。弾いているのはチェズレイだ。鍵盤の上を指が踊るたびに流麗な旋律が室内に満ちる。
    「――いつまで、そうしているつもりですか」
     手を止め、背後の気配に振り返らずチェズレイは問う。
    「いやー、いつ聴いても見事な腕前だと思ってさ」
     そう言って近づいてきたモクマの手にはカップがふたつあった。チェズレイがひとつを受け取って中を覗き込む。それはカフェオレらしく、コーヒーとミルクの香りがした。
    「俺もお前さんも病み上がりだからさ、胃に優しいカフェオレにしたんだけど」
    「ありがたく頂きますよ」
     そう言って微笑むとカップに口をつける。少しぬるくなったカフェオレが喉を通っていく。
    「そういえば、ボスはどうしています?」
    「部屋ノックして声かけてみたけど、まだ寝てるみたい。まあルークも色々あって疲れてるだろうしさ」
     ちなみにアーロンはすでに故郷のハスマリー公国へ向けて出立していた。入院中のアラナのことも気にかかるが、もう快復に向かっていると 817

    高間晴

    DOODLEぼんど800字。チェズモク。モクにオーダーメイドのスーツを着せたかっただけなので細かいことは許されたい……■知らない


     チェズレイはモクマと共に、今夜は裏社会のパーティーに潜入することになった。そこにはマフィアのボスなども顔を出すそうだ。狙いはそいつらの尻尾を掴むこと。
    「ちょっとチェズレイ。おじさん、ネクタイの結び方なんてわかんないから頼んでいい?」
     ホテルのツインの部屋でスーツに着替えたモクマ。申し訳なさそうに、ネクタイを差し出してきた。モクマはチェズレイのボディガードという名目で潜入するので、それらしい身なりをしなければならない。チャームポイントの無精髭は綺麗に剃り落とされ、オーダーメイドの黒スーツを身にまとったモクマに、チェズレイはため息を漏らす。
    「あぁ……素敵です、モクマさん」
     そう言ってネクタイを受け取ると、チェズレイは手早くモクマの首にネクタイを巻き、結び目まで丁寧に整えた。
    「ありがとさん」
     モクマが礼を言うと、チェズレイはその額にキスを落とす。
    「ちなみに今夜はパーティーから帰った後に、そのままあなたを抱いても?」
     含み笑いでお伺いを立てるチェズレイに、モクマは苦笑する。
    「パーティー会場で何事も起こらなきゃね。無事に生きて帰るまでが潜入ミッション、ってやつ 828

    高間晴

    DOODLEぼんど800字。バレンタインのチェズモク。■チョコレートよりも甘いもの


     よし、とチェズレイは決意を固めるとテーブルに手をついて、椅子から立ち上がった。
     今日は二月十四日。バレンタインデーだ。モクマも喜びそうなミカグラ料理のフルコースを出す店にディナーの予約を入れたし、渡すペアリングもしっかり確認した。あとはどうやってスマートにモクマを誘うか、だが。それについてはまだ何も考えていない。ちょっとその辺の道でもぶらついてこようと思ってセーフハウスの玄関まで来ると、モクマとばったり出くわした。
    「あぁ、おかえりなさい、モクマさん」
    「ただいま~っと。……えーと、チェズレイ」
     モクマが左手で背後に何か隠しているのがわかった。またこっそり酒でも買ってきたのだろうかと思っていると、目の前に赤とピンクのハートでカラフルなラッピングのされた小さな包みが差し出される。
    「バレンタインおめでとう! ……ってのも変かな? なんて言えばいいのかおじさんわかんない」
     てへへ、と少し困ったような顔で笑うモクマ。それを目の前にしてチェズレイは彫刻のように固まってしまった。
    「あ、チェズレイ? どったの? ……あ、これね、チョコレートだよ?」
    「… 817

    高間晴

    DOODLEぼんど800字。チェズモク。チェズレイの左目のメイクの下についてバレというほどではないネタバレを含みます。■インクルージョン


     カーテンから射し込む朝の光を感じてモクマは、ベッドの上でうっすら目を開ける。眼前には規則正しい寝息を立てて眠っているチェズレイの顔。目覚めてすぐ近くにこの男の気配があるのにも慣れたもんだな、とモクマはチェズレイのプラチナブロンドを指で梳いた。その感覚に身じろぎしてチェズレイがまぶたを震わせて静かに目を開く。
    「……おはようございます、モクマさん」
    「おはようさん、チェズレイ」
     二人は挨拶を交わすと小さく微笑む。
     そういった行為をしない場合でも同じベッドで眠るようになったのはいつからだったろう。チェズレイはもはや左目の周りに残る傷跡さえ隠しはしない。モクマは手でそっとその傷跡を撫でた。
    「お前さん、ほんとに美人だな。美人は三日で飽きるって言うけどありゃ嘘だってつくづく思うよ」
    「ありがとうございます」
     しかしモクマの称賛の言葉を素直に受け取れるまでに、チェズレイはチェズレイで悩んだようだった。完璧主義者のこの男が、自分の美貌に傷があるのを許すにはそれなりに時間がかかる。だからこそモクマは初めて出逢った頃のように「傷があるからこそ素敵だ」と言って聞かせたのだ 829

    高間晴

    DOODLEぼんど800字。何もネタバレしていませんが本編終了後の時間軸です。ルークに送るものを探してスーパーで買い物するチェズモク。■夏の北国にて


     久々にヴィンウェイのセーフハウスに帰ったチェズレイとモクマ。大きな仕事がひとつ片付いたし、しばらくの間のんびりしようということになったのだ。
    「モクマさん、洗濯物あったら出しておいてください」
    「はいよ。――じゃあ俺は買い出しにでも出かけようかね」
     そこでチェズレイはほんの少し思案する。
    「――待ってください。ボスにはこの間野菜を送りましたし、今度はヴィンウェイ名物のものを何かしら送りたいので私も同行します」
    「ははっ。チェズレイはすっかりルークのお母さんだねぇ」
     モクマが笑うと、チェズレイはほんの少し目をみはる。それから小さくくすくす笑った。
    「お父さんはあなたですからね」
    「あはは。そうだった」
     二人で笑うと、チェズレイは洗濯機にとりあえずモクマの分の洗濯物を入れてスイッチを押す。チェズレイの服の大半は素材がデリケートなので、あとでクリーニングに出される予定だ。
     それから二人は揃ってセーフハウス付近のスーパーマーケットへ向かった。
     買い物かごを載せたカートを押しながら、モクマはチェズレイの後をついていく。チェズレイは手袋の手で野菜を手に取って見定めて 822

    高間晴

    TRAININGロナドラ800字。
    事後のひととき。
    ■明かりを消して


     だいたい事が終わった後には、ドラルクはなかば気絶するように眠り込んでしまう。体力がないせいだ。だがこれでも真っ最中に何度も死ぬのを繰り返していた頃を思えば、進歩したほうである。
     真っ暗な部屋のソファベッドの上で、ロナルドはドラルクの体に腕を回し抱きかかえるようにして横になっている。
     そういえば、初めてした時もこいつに「電気消して」って言われたっけ。
     恥ずかしいんだな、と思ってその通りにしたのはいいが、吸血鬼であるドラルクは夜目が効く。結局ロナルドの表情などで彼がどれほどドラルクを欲しがっていたかを見せつけられて、逆に死んでしまったのはそれなりに過去の話になる。
     ロナルドはドラルクの髪を梳くように撫でて、その額に唇で触れる。愛おしさがこみ上げて口から少し笑いが漏れた。
     初めて会った時はこの吸血鬼とこんな仲になるなんて想像もしていなかったのに、人生ってわからないもんだ。
     すると、ドラルクが腕の中で身動ぎした。くあ、とあくびを噛み殺す気配がする。
    「……私、また寝てた?」
     そう訊く声はかすれて渇いているようで、少し無茶させすぎたなとロナルドは少し反省する 832

    高間晴

    TRAININGロナドラ800字。
    死別ネタ。
    ■しょっぱいジャム


     台所から立ち上るのは、煮詰められた甘い甘いジャムの匂いと湯気。それを嗅ぎつけたジョンが主人のもとへ駆け寄って足元で「ヌー」と鳴いた。
    「おや、ジョン。味見したいのかね? まだ煮詰めきれてないんだけど」
    「ヌヌヌーヌ!」
     そう胸を張って言えば、ドラルクが笑ってシンクの上にジョンを持ち上げて立たせる。
    「こぼすといけないからな。
     ――今日は特製クランベリージャムだ」
     そう言ってひとさじ、大きな鍋から真っ赤なジャムをすくうと充分吹き冷ましてからジョンの口元にやる。すぐに食いつくジョンにドラルクは顔をほころばせた。
    「オイシー!」
    「はははっ。そうだろう。これだけ作り置きしておけば、あの若造にだっていくらでも――」
     そこで思い出したようにドラルクの表情が曇る。
    「――……そうだ、もういないんだっけ」
     もうロナルドが死んでどれくらい経つのだろうか。もう彼が死んでしまったことすら忘れるくらい長い時を、使い魔と二人きりでドラルクは過ごしていた。
     その間ドラルクが感じたのは、空虚と退屈さだった。当然のことだが人間が一人死んだくらいではこの世界は変わらない。だがドラ 814

    高間晴

    TRAININGロナドラ800字。■お手入れ


     ソファに座っていたロナルドは自分の唇の皮を剥いた。やっちゃいけないとは分かっているが、皮がめくれかかっているとついやってしまうのが人間の心理。
    「ッ、痛って」
     そう言って自分の唇をぺろりと舐めると鉄錆の味がした。同時にその声で気づいたのか、傍にいたドラルクが携帯ゲーム機から顔を上げる。
    「何してんの、きみ」
    「唇の皮むいてた」
     それを聞いたドラルクは「ハァ!?」と目を瞠って、信じられないものを見る目になる。続いて「ちょっとそのまま動くなよ」と言いおいてゲーム機を置くと自分の棺桶の方へ行く。蓋を開けてその中から何やら取り出した。何かの薬だろうか。小さなチューブを手にして戻ってくる。
    「なにそれ」
    「リップバーム。リップクリームより保湿力があるやつ」
     ロナルドの隣に座るとチューブの蓋を開けて中身を人指し指に適量取った。そして反対側の手でロナルドの顎を捕まえてそれを唇に塗りつける。ドラルクの冷たい指先がロナルドの唇を数回撫ぜていって離れた。丹念に唇にそれを塗られたロナルドは半ば呆然とドラルクの顔を見つめる。
    「まったく、きみは外見に無頓着だから困る」
     せっかく美しい 803

    高間晴

    TRAININGロナドラ800字。■好きなひと


     今回もロナルドはフクマになんとか原稿を渡すことができた。ついでにフクマは原稿を持っていく代わりにファンレターの束を置いていった。それが現在机の上に数十通散らばっている。
     ドラルクはその中の一通の封筒を手に、事務所のソファにぐったり伸び切ったロナルドに訊く。
    「きみ、好きな人とかいないの」
    「……は? 突然何言ってんだよ」
    「だってこれだけファンレターもらってるし、気になる人の一人や二人いないのかって」
     ロナルドは体を起こすと、ドラルクの手から封筒を引ったくった。
    「いたらいたでお前に教えると思うか? 絶対ネタにして笑うわ引っ掻き回してメチャクチャにするわだろ」
    「おや、私の行動が読めるようになったか」
     おりこうさんでちゅね~。とドラルクがふざけた口調でロナルドの頭をくしゃくしゃに撫でる。ムカついたので反射的に殴ったらドラルクは死んだ。
     ロナルドは手にした封筒を開けて中身の便箋を取り出す。そこには熱烈なメッセージが綴られている。女性らしいやわらかな文字と文章に見覚えがある。あ、この人確かロナ戦一巻からファンレター送ってくれてる人だ。曰く、ロナ戦ブログ時代からの 826

    高間晴

    TRAININGロナドラ800字。
    ※死ネタ注意。
    ■ずっときみを待っている


     私は夜更けに墓地を訪れた。さすがにこの時間帯となれば他に人影もない。ジョンを肩に乗せ、近くの花屋で買った百合の花束を手にして歩いていく。吸血鬼ゆえに夜目が効くおかげで懐中電灯なんてものもいらない。
     やがて目指していたとある墓標の前に立つ。そこには彼が眠っている。
    「……こうしてここに来るの、何度目だろうね。ねぇロナルドくん」
     そう墓石に問いかける。
     彼はずっとずっと昔に死んだ。ひとつ言っておくけど、死因は老衰。最期は私とジョンと、彼と親しかった人々が看取った。
     墓の前にひざまずいて白百合の花束を捧げると、月明かりが辺りをまばゆく照らし出す。空を見上げる。見事な蒼い満月。ああ、彼が空の上からこっちを覗き込んでるみたいだ。眩しくて私は目の上に手をかざす。
    「何度でも言うけど、きみと過ごした時間はとても楽しかったよ」
     その昔に同じ台詞をベッドの上で意識が混濁し始めた彼に言ったら、こう返ってきた。「俺もだよ」って。
    「だから、きみも早く私のところに帰っておいで。そうしてまた私と馬鹿騒ぎしようじゃないか」
     私はポケットから小さな箱を取り出す。そこには彼 808