猫と宇宙船。 ル・ララ。星の子守唄。
―おうちへ帰ろう、いっしょに帰ろう。
[猫と宇宙船。] Act 01
小雨がしとしと降り続いている。
夜明け前の曇り空、薄い霧が視界を惑わす。
森で迷ったヘンゼルのように、道なき道を歩いていく。
太陽が昇った瞬間に『今日』は始まる。だからまだ、今は、昨日と明日の境目の、異世界のような時間。
みぃ、と か細い声がした。 公園に入ってみれば、屑籠の傍に置き去りの子猫。ダンボールの中で震える小さな命に、良太郎は巻いていたマフラーを掛け、傘を差した。
冬を目前にして雨は冷たく、冷淡に体温を奪う。アパートに帰ってきて、靴を脱ぐ前にポストに入れられていた葉書を訝しく取り上げてみたけれど、行きつけの美容室のイベントを告知するDMだった。誰か知り合いからの葉書かと期待してしまった自分が虚しく、良太郎は葉書をリビングのテーブルの上におざなりに置くと、濡れた髪をタオルで拭いた。―知り合いなんて、あるはずがないのに。自分を育んだ町の人達は誰も、自分の居場所を知らないのに。
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