古い思い出を捨てることには、身軽になる痛みがつきまとった。過去というものはしがらみの一つであろう。それを切り捨てることは肌を脱ぎ捨てるように、引かれる後ろ髪を切り離すような、心地よさと表裏一体の心もとなさがつきまとった。春を迎え、冬の寒さを凌ぐために纏っていた重たい外套や毛布を脱ぎ捨てれば、きっとどこまでも駆けていけるだろう。けれども自分はもう、どこかに行きたいわけではないのだ。
「そんなことを言って。いい加減この部屋を片付けたほうが良いと思うよ。ワイフーだって言っていただろう」
本棚を整理していたドクターが、浮かない顔で小箱の中身をいじっていたリーに苦笑する。古くて汚い探偵事務所、というワイフーの言葉は、リーからしてみれば異議異論のあるところではあるが、確かにその一面は事実だった。すなわち、汚い、という。
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