前奏曲 15番ぽつり、ぽつり、音のない空間であたたかい雫だけが空気を震わす。
その雫は、俺の乾いた髪や皮膚やシャツへと小さく染み込んで、潤していく。
砂漠で死にかけた葉に降る優しい雨のように。
硬い机に軋むからだを突っ伏して落ちていた意識が、小さな雨だれに少しずつ、優しく引き上げられていくと、耳やこめかみに柔らかい熱を感じて薄く目を開ける。
「……」
汚いから、と返そうとしてもまだ身体は言葉を霞ませる。ぎしりと音が鳴りそうな肩と背をゆっくり持ち上げると、しなやかな裸体がするりと入り込み、無遠慮に髪や頬を撫でていく。
湯で濡れた清潔な桃色の肌はまるで食べ物のようで、しかしこちらを見る端正な顔立ちは捕食せんとする獣の目だ。
蜜を溢れさせたように額から雫を垂らし、深い瞼を瞬かせながらお前を食うよと鼻先を齧る。
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