Lovers and cigarettes外で煙草を吸うには随分と風が強い。
一服しようとつけたライターの火はすぐに掻き消えるが、煙草を咥えたままでは舌打ちもままならなかった。手で風を避け、あえかな灯火を囲い、何度目かの繰り返してようやく先端にほのかな明かりが灯る。肺に雪崩れ込む紫煙は甘い背徳と苦い努力だった。吐き出す息はすぐさま夜風に吹き散らかされ、星もない夜ともなれば何の痕跡も残らない。
「こんなところでサボっていたのかい」
背中から声がかかる。自分を追うようにして甲板に出た誰かがいたことも、その正体にも気づいていた。けれども気づかない振りをしていたリーはようやく、緩慢に人影の方へと振り返った。乏しい外灯の下では、ドクターは白い闇のように沈んで見える。
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