ある日の光景 食堂は賑わっていた。
かちゃかちゃという皿やスプーンの触れあう音、ひとびとの笑い声、鼻をくすぐる香辛料の匂い。
なごやかな空気のなか、エミヤは厨房でひとり皿を拭いていた。
昼をすこし過ぎた頃合い、ようやく注文も一段落したところだった。
昨日マスターとローマの屈強な一団が微小特異点で小山ほどもある巨大な牛をしとめてきた。ゆえにきょうのA定食はぶあついステーキ、B定食のビーフシチューともども瞬く間にはけてしまって、ありがたいことにいま冷蔵庫は空っぽとなっていた。
焼けた肉の香ばしい匂いがまだあたりに漂っている。厨房越しにみなの満足げな顔をながめ、よいことだとつられて笑みを浮かべかけたところで、おやとエミヤは首をかしげた。
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