ミオリネ・レンブランの冒険1「もうすぐバレンタインですね」
二月に入り一週間ほどが経過したある日の放課後、校舎裏の片隅で、花壇に移すクロッカスの芽出し球根を運びながらスレッタが言った。夢みるように瞳をきらきらさせて、
「ミオリネさんはシャディクさんにチョコあげるんですよね?」
と訊ねてくる。質問というよりほぼ確信めいた口ぶりだ。
「あげないわよ」
ざしゅっ。
わたしは移植ゴテの先端を土に刺した。適当な深さまで土を掘り起こす。軍手に土が跳ねる。
「ええっ」
芽出し球根が入ったコンテナボックスを抱えたままスレッタが小さく叫ぶ。
「あああああげないんですか?」
露骨に信じられないって顔しないでよ。
「あげないわ」
もう一度――今度は先ほどより幾分ゆっくり、わたしは同じ言葉を繰り返す。
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