とあこいサンプル序
おや、と彼女は呟くと、こてん、と首を傾げたままカーヴェを見つめてきた。その動作の際に、耳についた装具が揺れる。薄桃色の、この国では見たことのないその左右につけられた装具は稲妻と璃月で使われる扇の形を模していて、その片方には三つ巴の紋が刻まれている。
異国の女だ。白と赤を基調に幾重も纏ったそれは巫女装束と呼ばれるものだった気がするが、果たして巫女というのは大胆にも太腿から下部を露出するものだろうか。印象的なのは、薄紅の長い髪を彩る大ぶりな真鍮の輪飾り。似たようなものが豊満な胸元にもあしらわれている。スメールの苛烈な太陽と湿気の中にあってなお、彼女は悠然と佇んでいる。アラバスターと見紛う肌に少しの汗もかいていない。その周囲だけ時間の流れが異なるのだと言われても納得できてしまいそうだ。
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