おきつねさまの菓子司 ~はじまり 『それ』は突然現れた 大晦日。この頃になれば、夕べと言えども日はすっかりと落ちて薄暗い。店の立ち並ぶ通りでは、あと数時間後に訪れる年明けを待ちわびてさざめく人々の声。そんな喧騒に己のトレードマークともいえる白黒二色の頭を振り、身長2mの立派な体躯にふさわしい広い背を向けて、道満は暗い路地へと歩を進める。マフラーの隙間から冷たい空気が剥き出しのうなじを撫で上げて、思わずぶるりと身震いした。
病院からの帰り道。住まいから少し離れたそこは通院に時間がかかる為、下手をすれば一日がかりになる事もある。今日のリハビリの成果を思い起こすと共に、その胸中にはいつかの絶望が去来した。
『膝の靭帯断裂です。手術をすれば日常生活に支障ないレベルまで回復しますが、サッカーのように脚を酷使するスポーツを続けられるかどうかは、現段階では断言できません』
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