「……テニス、辞めるんスか」
問われると分かっていたはずなのに、実際に音として形を成したその言葉はずく、と胸を重く沈ませた。ゆるりと視線を落としながらそっと息を吐く。視線は合わせられなかった。
「桃城が考えとる意味では、そうやな」
存外の言葉の重さに一息では告げられなかった。一生ラケットを握らなくなるとか、そういう話の方がまだ良かったかもしれない。これは心の向け方の話だ。これまでは同じ方角を見ていたのに、忍足の心は一人すでに違う場所に向いている。僅かな角度の違いかもしれないが、その傾きの持つ差はあまりに隔絶している。そして忍足はもうそちらを向くつもりがない。それは一人で密やかに決意したことだった。
午前中の、楽しいながらもどこか探り合うような時間。わかっていた。問われることも答えることも。今日のこれまでの時間は、今この時のためにあったのだと。
小さく長く、桃城が息を吐く。
「やっぱり、そうスよね」
呟いてから息を呑む音が響いた。笑おうとして失敗したその声。こうなる前に話していたら変わっていただろうか。でもそれは無理だっただろう。
桃城は信じていたかったし、忍足はぎりぎりまで良い顔をしていたかった。行き着く場所はとうに見えていたはずなのに、それでもそうしていたかった。
未練。
何に対してか、一言ではくくれない。