どうぞこの手をぽん、
「おっ……と…すまない」
マックスウェルと二人でベッドの上でまったりと寛いでいたら、いつの間にか睡魔に襲われてしまった。重い瞼越しにかくんとマックスウェルの頭に落としてしまった自分の手をどける。
雑誌を読んでいたマックスウェルもどうやらうとうとしているようで、鈍い動きと喉の奥から小動物の鳴き声のような音が返ってきただけだった。絶対私以外の誰にもそんなかわいい顔を見せてくれるなよという思いが一瞬沸き起こるが、しかしもう一日の疲れが心地よく染み込んだ体が重しになったようで、まぁいいか、とそのまま彼の頭を撫でる。
しばらくぼんやりと彼を撫でていたが、本格的に彼は眠そうに見えた。
「眠いな、もう電気を消そうか」
そう言って身を起こそうとすると、つい、と寝巻きのすそを引っ張られて「だいじょうぶですよ」と聞き取れた後、なにやらマックスウェルが呟くと、フッと部屋の電灯が落ちた。
魔力の気配がしなかったから、この前マスターが喋っていた、家電の音声認識のようなものだろうか?そういえば夕食の時に見せたいものがあるのだと楽しそうな顔をしていた。お互いに今日は疲れていたこともあり、食後はどちらともなく静かな時間を過ごすことになったので聴き逃してしまったが。
一度身を起こしてしまったのでやや目が冴えてしまった頭で、マックスウェルの隣に再び横たわる。自分がそうだからそのように見えるだけかもしれないが、隣にいるマックスウェルの悪魔はサングラスを外し、もう少しで眠りに落ちる微睡みを、幸せに感じているような気がした。
カルデアに召喚されて間もない頃は、もっと非人間的で、超然として食事や睡眠などをやんわりと断っていたのだったが。同時期に召喚された他のサーヴァントや、学者たちと交流するうちに、ずいぶん変わっていった。
こんな風に変わっていくということを、初めの頃の私は、いや、マスターだって想像もしていなかっただろう。それは、私たちがマックスウェルの悪魔を理解しようとしていることに、マックスウェルの方からも応えていった結果のような気がして、胸の内に深い感慨が広がる。
マックスウェルの睡眠を邪魔しないように、そっと髪の毛を撫でた。
つややかな髪の毛は、指をなんの抵抗もせずに送り出す。
力を入れないようにするつもりだったが、髪の毛を通して伝わってくる彼の体温に愛おしくなって、自分の手の甲ごしに、口付けをひとつ落とした。
そうしてもう静かに寝ようと思ったのだが。
ぱち
「……………」
気がついたら目を薄くあけて、自分の手をぼうっと見ているマックスウェルに気づいてしまったものだから、起こしてしまったかと謝った。
「いえ………今の、私の手じゃ……ありませんでしたね」
「? そうだと思うが……」
私が困惑して言うと、マックスウェルはもう目を瞑って、半ば寝ている人間のように呟いた。
「ひとりで辛い時、目をつぶって…」
「暗いところで、自分の頭をさわるんです」
「そしたら自分の…手が、自分の手じゃないようで」
「優しくて大きな誰かに、撫でられているような気持ちになれるんですよ」
「でも…さっきの……明智さんでした……ね……」
暗いところで
ひとりで
自分で自分の温かさを
確かめるように
そうしているマックスウェルが目の裏に浮かびかけた。
私も目をつぶった。そのままマックスウェルを軽く抱き寄せる。
「疲れたね、もう寝なさい」
体温を感じる頭に、口を寄せて、手のひらで確かめるように撫でなおした。
「はい……おやすみなさい、明智さん」
おやすみなさい、
私でよければ、いつでもこの手を
必要としてくれ。