死ぬ方法について考えていた。
溺死はできない。この近くに溺れるほど深い水辺はないし、あったとしてもすぐに引き上げられてしまうだろう。それに、死体が酷い有様になるって聞くし。
飛び降りも出来ない。この近くに落ちて死ねるほどの高い建物はないし、それこそすぐに抱えられてしまうだろう。せいぜい骨折がいいところではないだろうか。
服毒も……厳しいだろうなあ。そもそも手に入れる方法が無い。現世にいたころなら、色んな薬局を回って風邪薬やら咳止めやら頭痛薬やら、市販薬をたくさん手に入れてオーパートーズ、とかできたかもしれないが、こちらに来てからは基本健康体になって薬に頼ることも減ったし、そもそも現世の薬は何がきっかけで霊力に影響があるか分からない、とかなんとかで使用も持ち込みも禁止されている。何かがあった時は軽いものなら本丸内に設置してある簡易救急ポットで治療、それも無理なら政府施設内の医療機関にかからなくてはいけないから、基本的に薬が手に入らない。まあ、そうでなかったとしても、オーパートーズは生き残った後が地獄とよく聞くし、できるだけやりたくないなあとは思ったけど。
あとは……やっぱり、首吊りかなあ。昔、ベルトとかネクタイをドアの取っ手に括りつけて自殺しようとしたことがあったけど、あの時は結局、少しずつ体を落として、首が閉まっていく感覚に恐怖してしまって死ねなかった。ここは和風建築で、縄を括り付けるのに打ってつけな梁もある。私が女である、ということから離れも用意されているし、なにより離れに彼らは近づかない。ああ、やはり打ってつけだ。適当な踏み台と、縄、それさえ用意できれば、あとは私が覚悟を決めるだけだ。
まあ、ほんとは、彼らに首を刎ねて貰えれば、もしくは心臓を一突きしてもらえば、それが一番望ましいというか、楽なんだけど。いくらモノとは言え、あんなにも表情豊かで感情を持つ彼らにそれを頼むのは、気が引けるから。だからやっぱり、自分で自分を殺すしかないのだ。
今までは、そんな覚悟も度胸もなくて、死にたい死にたいって自分を呪うばっかりだったけど。
もう、覚悟を決めることが出来たから。死にたいって言って周りを困らせる前に、迷惑をかける前に、自分で口を塞げる。
ありがとう、お母さん。先立つ不孝をお許しください。どうかあなたは残りの人生を幸せに生きてね。もう、私なんかに縛られなくていいからさ。
ありがとう、数少ない友人の皆。こんな私に付き合ってくれて、ほんとに救われてたんだ。なんども迷惑をかけたし、こいつうざいなって思ったことも多かったと思う。遺書にも書いたけど、遺品の中に欲しいものがあれば遠慮なく持ってってください。
ああ、それから。私の刀たち。
ダメな主でごめんね。主はこんなだめな人間だったけど、君たちは素晴らしい刀だから、どうか政府に行くなり別の本丸に行くなりして今後も君たちの武勇を示していってください。
最後に、神様。思い残すことはないとは言えないけど、でも死ぬことを決めました。そんな私の、最後の願いを一つだけ、聞いてください。
どうか、来世は健やかに──
たん、軽い音を立てて踏み台を蹴った。