運命の特異点「先輩は、僕がこういう髪の色じゃなかったら、好きになってなかった?」
と、何となく聞いたら、先輩はきゅっと目を丸くした後、俯いて考え込んだ。
僕としては、多分、『そんなことはない』って、即答して欲しかったんだと思う。
『思う』、だなんて他人事みたいだけど、考え込まれている今、少し──どころじゃなくかなり不安になっているから、まぁそういうことなんだろうなと、遅れて気付いた。
待つ、というより、聞かなければよかったかな、とか、聞いてどうするつもりなんだろうか、とか、後悔と自問に忙しく結果として黙りこくった僕に、先輩は、俯いたまま呟いた。
「特異点、では、あったと思う」
特異点──。
その意味の在り処ろを僕が探している間に、先輩はゆっくり、だけど確実に言葉を重ねた。
「お前が俺の下についていなければ、その前に今の隊に配属になっていなければ、もっと言えばお前か俺かどちらかが吸隊に入っていなければ、俺たちは出会ってすらいない」
遡られるのは各々の道程。
「何かひとつでも違えていたら、今のようにはなっていなかっただろうな」
そこで、先輩は顔を上げて、僕を見た。
「髪──」
そおっと伸ばされた指先は、僕の髪に、触れた。
だけどまっすぐな視線は、僕の目から、少しもずれていない。
「……そうだな、お前に興味を持つ、切っ掛けのひとつであったことは、否定しない」
触れているのは毛先。毛髪に神経はない、それなのに、
「だが──」
その指が、先の先まで温かいと感じて、嬉しくなって、しまうのは、
「例えお前の髪が今とは違う色であったとしても、お前とこうなりたいと、俺は、望んだ筈だ」
言葉と、声と、それから、
「お前には、この髪以外に、俺を惹きつけて止まないものが山程ある。お前自身が理解しているいないに拘らず、な……。だから──」
僕を見つめて、しっかりと、だけど少しだけ照れ臭そうに笑いながら、
「お前と出会えてさえいれば、俺は必ずお前を──サギョウを、好きになる」
僕自身も自覚していなかった不安を、望んだ以上の言葉で取り払ってくれる先輩が、僕も──大好きだからだ。
「っ、えへへ」
心配を掛けたくなくて、嬉しさで滲んだ涙を隠したくて、大袈裟に笑ってみたけど、
「……何か、不安にさせることをしてしまったか?」
と聞いてきながら先輩が僕の目尻をなぞったから。
何となくの思いつきで聞いただけなのに結果として泣いてしまって、却って気を使わせてしまったのが申し訳なくなった僕が慌てふためくのはまた別の話、として、いいだろうか?